学校に都合悪い生徒をはじく目的に… 「適格者主義」で前川元文科次官 環境づくりは「行政の責務」〈高校でも一緒に・定員内不合格を考える〉⑩


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「適格者主義は撤廃すべきだ」と語る前川喜平氏=東京都目黒区の現代教育行政研究所

 高校入試で定員内不合格が出る背景となっている考え方がある。高校の教育課程を履修できる見込みのない者を入学させることは適当でないという考え方、いわゆる「適格者主義」だ。元文部科学省次官で現代教育行政研究所(東京)の前川喜平代表は、戦後ベビーブーム世代が高校進学時に明示された適格者主義が、高校進学率が向上した現代においても「首の皮一枚残っている」と表現し、「撤廃しないといけない」と強調する。

 戦後の高校は「希望者全入」が原則だったが、高校生急増が課題だった1963年、文部省(当時)は「適格者主義」の源流となる通知を発出した。その後、高校進学率が上昇したことを受け文部省は84年、資質は一律ではなく学校ごとに個別に判定するという考え方に改めた。現在、高校進学率はほぼ100%に達し、定員割れを起こす学校も出ている。

 前川氏は「学校個別で判定するということは、適格者主義を捨てたこととほぼ同じだ。それにもかかわらず、手の掛かる子とか問題を起こしそうな子とか、学校にとって都合の良くない生徒をはじくために適格者主義が使われている」と、その弊害を指摘する。

 また、「適格性」を測る基準とも言える学習指導要領についても「フィクション」と断言する。「指導要領に一番沿っているのは小学校だが、中学校、高校になるとついて行けない子も出てくる。上に行けば行くほど指導要領は虚構になる」。厳格に高校の学習指導要領通りにやると、逆に学びを保障できない事態になるというのだ。

 障がいのある生徒については、学校教育法で高校にも「特別支援学級を置くことができる」と定めているものの、同法施行規則に高校で特別の教育課程を編成できるという規定はない。大阪府は法令の矛盾を超えて「知的障がい自立支援コース」を設置している。

 前川氏は大阪府のコースについて「脱法行為だが、人権保障、学習権の保障という大前提のためにやっている」と擁護する。そして「沖縄もいい脱法行為をしている。それは自主夜間中学の卒業生に卒業証書を出していることだ。学齢簿にも学籍簿にも名前がない人に卒業証書を出し、しかも高校入学資格という効力もある」と指摘。

 「法令の矛盾があるのは文科省の怠慢だ。前向きな脱法行為は認めるべきで、変えなければならないのは法令だ」と強調する。

 前川氏は「適格者主義」を超えた先にインクルーシブ教育があると説く。「文科省や教育委員会は理想に向かって努力しているようには見えない。一緒に学べる環境をつくるのが行政の責任だ」

(稲福政俊)
(おわり)