新型コロナウイルスの感染予防対策として根拠のない情報が書かれ、他者に転送を促す「チェーンメール」が会員制交流サイト(SNS)などで拡散されていることが、西日本新聞「あなたの特命取材班」への複数の情報提供で分かった。中には、コンピューターウイルスが埋め込まれたものもあり、専門家は「安易に信じず、拡散しないで」と呼び掛けている。
不安が拡散
〈【拡散希望】武漢ウイルスは耐熱性がなく、26~27度の温度で死ぬ。お湯を飲めば予防できます〉
福岡県内に住む60代女性の無料通信アプリLINE(ライン)に、そんなメッセージが届いたのは24日夜。友人や同僚にも同じような内容がメールやラインで届いたという。
内容に多少の違いはあるが、「医療関係の友達」や「自衛隊」、「友人の友人の友人」からのまた聞きとして、「お湯を飲めば予防できる」という点が共通していた。一部にはインフルエンザなどのワクチン治療を否定するものもあり、名古屋市の40代女性は「保育園のママ友の中で出回っている。善意だとしても看過できない」と不安を口にする。
お湯を飲めば本当に感染を防げるのか。聖マリア病院(福岡県久留米市)の本田順一副院長(感染制御学)は「26~27度で死滅するなんてことはあり得ない。お湯に関しても根拠のないデマ」と完全に否定する。その上で「国や日本感染症学会など公式の情報以外は信じないでほしい」と訴える。近畿大の吉田耕一郎教授(感染症学)は「人間の体温より低い温度で殺菌できるなんて、常識的に考えてあり得ない。出元の分からない情報を安易に信じるのは危険だ」と話す。
メッセージの中には、実際に存在する病院名を出して「一心病院の看護師から聞いた」という内容もあった。これについて、一心病院(東京都豊島区)の担当者は「うちで出した情報ではなく、内容も不正確。メールに関する問い合わせが十数件以上あり、業務妨害だ」と困惑した様子で話した。
日本感染症学会は、お湯を飲めば防げるとの情報について「科学的に証明された成績は存じない」とコメント。具体的な対策のポイントについてホームページで紹介している。
PCの“感染”も
見ず知らずの人物ではなく、家族や友人、知人からのメールで中身を信じ込んでしまうのがチェーンメールの恐ろしさ。中には、コンピューターウイルスが仕込まれたなりすましメールもある。
サイバー攻撃対策の支援を行う団体「JPCERTコーディネーションセンター」によると、1月28日以降、新型コロナウイルスに関するなりすましメールの存在が確認されている。
「別添通知をご確認ください」などと、添付ファイルのワード文書を開くよう促しているが、コンピューターの正常な利用を妨げる不正プログラム「マルウエア」の一種・Emotet(エモテット)が埋め込まれている。
このファイルを開くとパソコンがウイルスに感染し、保存されたメールアドレスや本文が盗み取られる。その人物や組織になりすまし、勝手にメールを作り出して拡散するウイルスで、世界各地で被害が広がっている。
担当者は「友人や知人が意図的に送ったメールではなく、なりすましメールの可能性もある。安易に添付ファイルを開かないように」と注意を呼びかけている。
(西日本新聞・押川知美、坂本信博)