好調から一転、沖縄経済に暗い影 新型コロナ感染拡大、専門家が見通す先行きとは…


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 新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)の拡大は、これまで好調を維持してきた県経済に深刻な影を落としている。観光客の減少で宿泊業や旅行業の観光関連で経営環境が悪化し、イベントの中止や延期で人や物の動きは当面停滞が続く。沖縄経済が置かれている現状や今後の見通し、解決に向けた道筋などを県内の専門家に聞く。

久高 豊専務(りゅうぎん総合研究所)

正しい「ばらまき」を 久高豊・りゅうぎん総合研究所専務

 新型コロナウイルスによる肺炎が県経済に与える影響は、既にかなり大きくなっている。2月の観光客数は前年度比で2~3割減少しているとみられ、ホテルの売り上げも連動して下がっているところもある。

 しばらくは同様の状況が続くとみられ、仮に感染が5月ごろに終息に向かうと想定しても、2~5月で入域観光客数は100万人程度減少しかねない。米国同時多発テロや東日本大震災を上回るようなインパクトを与える可能性がある。

 雇用に対する影響も出るだろう。県内では好景気が続いたことで雇用が広がり、これから全体的な賃金上昇に転じていく局面だった。しかし景気の悪化により雇用のひっ迫感がなくなれば賃金上昇の力が弱まる。さらに企業が雇用調整に入ることも考えられ、求人自体も弱くなる。

 消費増税で始まった経済への下押しに、一時的にせよ想定外のコロナの影響でさらに激烈な力が加わっている。だが感染を早期に終息させるためにも今は我慢の時だ。企業が存続し雇用が守られれば、その間に施設のリニューアル予定を前倒ししたり、社員教育に時間を使ったりなど終息後の需要回復期に向けた備えができる。

 そのためにも、行政がしっかりと支えることが何よりも重要だ。雇用を支えるために予備費を使い、補正予算で「正しいばらまき」をするべきだ。国民1人当たりに現金14万円を支給する香港のように、消費を回復するためのばらまきは将来につながる。

金城 毅上席研究員(NIAC)

20年度後半に持ち越し 金城毅・NIAC上席研究員

 県経済は2011年の東日本大震災以降は回復を続け、全国を上回るほどに好調を維持してきた。しかし今後は公共投資や住宅投資、設備投資が減少することが見込まれ、新型コロナウイルスの影響がなくても成長率が低下する可能性があった。那覇空港やモノレールなど大型の公共工事は完了し、建築コストの上昇や金融機関の融資審査が厳格化したことで住宅投資も減少する。大型商業施設の建設もピークを過ぎており、消費増税の影響で個人消費も落ち込んでいる。

 日韓関係の悪化で外国人観光客の動きが鈍くなっている中で、新型コロナの感染が広がった。イベントの中止も相次いだため、国内客の減少も予想される。ホテルの稼働が落ち込み、雇用調整が行われる可能性もある。悪い材料が重なり、2020年度の前半は厳しい環境になるだろう。

 一方で新型コロナが落ち着けば、旅行を我慢していた人たちが多く沖縄を訪れることも考えられる。クルーズ船に関してはマイナスイメージを回復するために時間を要するかもしれないが、20年度後半には観光は持ち直すだろう。

 新型コロナの感染拡大は県経済にさまざまな影響を与えているが、感染症対策のマニュアルなどを見直す機会にもなる。感染防止のため県内企業でもテレワークや時差出勤などを実施しており、働き方改革が進むきっかけになるかもしれない。新型コロナを契機に、県経済が新たなステージに踏み出してほしい。

宮島 潤一代表(沖縄観光総研)

中小企業は4月が限界に 宮島潤一・沖縄観光総研代表

 新型コロナウイルスの感染拡大が沖縄観光に及ぼす影響は想像以上に大きい。

 新型肺炎で客足が止まった中国人客と、日韓関係悪化で減少していた韓国人客だけで沖縄の年間訪日外国人客の約50%を占める。観光消費額はこの2カ国だけで年間1千億円ある。加えて台湾や香港にも影響が及び、インバウンドの7割がいない状況だ。

 沖縄を訪れる観光客約1千万人が落とす年間の消費額は、県民が1年で消費する総額の半分に上る。国内客や春からの修学旅行も減っている中で経済的な損失が大きい。

 ゴールデンウイークまでに回復しないと状況はさらに厳しくなり一刻も早い終息が望まれる。売り上げが入ってこない中で人件費などのコストがかかり、今後倒産企業が出てくることは否めない。特に中小企業は持ちこたえて4月いっぱいが限界ではないか。

 観光業界は中小零細企業が多く、雇用体力がなくなることも懸念される。非正規雇用も多い中で、安易な人員削減をしないことが大事だ。そのためには助成金など行政の支援が重要となる。将来に必要な観光人材を逃してしまわないよう、雇用を守る必要がある。感染拡大が終息し、再び観光が回復した時に人材を確保しようとしても厳しい。

 観光客が来ないと経済が成り立たない。オーバーツーリズムの問題もあったが改めて観光客のありがたみが分かった。この機会に観光戦略を練り直しても良いのではないか。

宮城 和宏教授(沖縄国際大学)

行政の経済対策が必須 宮城和宏・沖国大教授

 2019年度から日韓関係悪化の影響で韓国の観光客が減少していた中、新型コロナウイルスの拡大で中国やその他の地域からの観光客も減っている。さらに各種イベントの中止が相次ぎ、外出自粛の動きも広まる中、さまざまな業界で需要の低下、消費の低迷が起きているのが現状だろう。

 現状が続くと企業活動の停滞が生じ、近年言われ続けてきた人手不足の問題から、一転して人余りの状況に陥りかねない。そこまで行くと、もはや民間の努力だけでは問題を解決することが難しくなる。

 国は小中高校の休校を要請し、子どもの世話で保護者が休んだ場合、休業補償を出す方針だが、こうした対応はとても重要。まずは事態の終息に全力を注ぎ、その後さまざまな経済対策を講じて需要を喚起することが必要になる。

 今は辛抱の時と言えるだろう。事態が終息しないままでは、大規模な経済対策を打ち出しても十分な効果が発揮されない。状況が落ち着けば観光客も次第に戻ってくるはずだ。

 問題は状況が長引いた場合だ。需要の低迷が続くと、企業が従業員の雇用を維持できなくなる恐れがある。各企業で退職者が相次ぐと、観光客が戻っても受け入れ体制が整わない事態も想定される。終息後も県経済が回復するまでに、時間を要することになる。

 こうした問題を回避するため、事態が長引く場合は新たな対策を打ち出す必要がある。国や県、各企業が知恵を絞ることが大切だ。 (経済学)