展示できた人物写真は1枚のみ… 愛楽園で企画展 「展示不許可」が示す入所者にいまも続く厳しい現実とは


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
「国立療養所沖縄愛楽園『第3センター』2017」(木村直さん提供)

 【名護】風に揺れるワンピース、寄せては返す波の音、入所者が亡くなったことを知らせる放送―。沖縄県名護市済井出の国立療養所沖縄愛楽園自治会は2月29日から、写真家の木村直(ちょく)さん(22)=横浜市=による企画展「記録と継承」を開催している。木村さんが同園や宮古南静園で触れた元ハンセン病患者らの日常を写真と映像で表現する。「入所者の生活を知ってほしい。身近に感じることでハンセン病問題を考える契機になれば」と話した。

木村直さん

 初めて愛楽園を訪れたのは2歳。カメラを持参したのは18歳から。当初はレンズを向けることに「申し訳ない気持ちになった」。差別と偏見に傷つけられ、心と体の傷を隠してきた人々を記録する。「傷をえぐっているのではないか。撮る暴力ではないか」。恐れながらシャッターを切った。

 転機となったのは、あるおばあさんの言葉だ。「若者が私の隣に座るなんていい時代になった。あなたが隣に座ってくれたことで、私は今日、感謝して死ねる」

 撮影しにくいから撮影しない、記録を残さないのは逆に「見せない暴力」と思うようになった。入所者らの何気ない話の中に見える痛切な苦しみ、数え切れない笑顔を切り取った。

 だが、企画展で展示できたポートレートは1枚。「展示は嫌がる人が多かった。ハンセン病問題は終わったとの認識が社会にはあるが、全く終わっていないと改めて感じた」

 企画展入り口では何も掲示せず「展示不許可」とだけ記したボードが来場者を迎える。撮影を許可した元患者でも写真展示には慎重にならざるを得ない状況を示した。「日常を伝えるのと同時に、今も差別や偏見におびえて暮らさざるを得ない現状も伝えたかった。見に来た人が何かを感じ、考えてもらえたら」

 企画展「記録と継承―沖縄愛楽園と宮古島南静園」は愛楽園交流会館で4月3日まで。午前10時~午後5時。入場無料、月曜・祝日は休館。問い合わせは同館(電話)0980(52)8453。
 (佐野真慈)