「信頼失ったらバイヤー来なくなる」 希少血統と異なるDNA牛出荷 信頼揺らぐ県産牛…離島経済に暗い影


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 「信用を失ったら県外のバイヤー(購買者)が来なくなる」。久米島町内で出荷された子牛の一部が登録上の血統と異なっていた事態を受け、町内の和牛繁殖農家は信頼失墜による取引価格の暴落を懸念する。農業が基幹産業の久米島にとって子牛繁殖はサトウキビに次ぐ生産額で、島経済を支える重要な存在だ。子牛の取引価格が低下傾向にある中で発覚した「DNA不一致問題」は、県内の肉用牛産業の信頼を揺るがす恐れもある。

 肉用牛産業は子牛を産ませて10カ月ほど育てて販売する「繁殖農家」と、繁殖農家から買い付けた子牛を2年ほど育てて枝肉として出荷する「肥育農家」に分かれる。県内は繁殖農家が大半で、久米島町内では全ての農家が繁殖を行う。沖縄は子牛繁殖の一大産地で、出荷頭数は全国4位を誇る。県内に8カ所ある家畜市場で取引される子牛の9割が県外の肥育農家に育てられ、ブランド牛として消費者に届けられる。

 久米島家畜市場では18日に競りが控えており、町内の農家は「取引価格がどうなるか心配だ」と口をそろえる。2カ月に1回行われる競りでの子牛取引は、農家にとって貴重な収入源だ。町内農家はDNAの不一致が発覚することで購買者からの信頼を失い、取引価格が下落することを危惧する。

 競りを運営するJAおきなわ久米島支店の松元靖農産課長も「競り価格の動向が気がかりだ」と語る。

 宮崎県での口蹄疫(こうていえき)発生や、東日本大震災で全国的に子牛が不足したことで、県内子牛の取引価格は高騰していた。だが不足が解消しつつあり、価格は低下傾向にある。さらに県内で豚熱(CSF)が発生し、感染拡大を懸念する県外農家の購買者は減少する。

18日の競りに出される予定の子牛たち=11日、久米島町内

 新型コロナウイルスの影響で枝肉価格は下がり、県外の肥育農家で繁殖牛の需要が低下したことが、価格の下落に拍車をかける。今月、黒島と八重山の家畜市場で行われた競りの平均価格は、前回取引と比べて8~9万円ほど落ち込んだ。

 いい子牛を生産し、高値での取引につなげることを目標としていた繁殖農家も多い。今回の件で価格が下落し、これまでの努力が水の泡となる恐れがある。町内の70代の繁殖農家は「沖縄から畜産業が消えたら離島の経済にも影響する」と不安げに話した。
 (石井恵理菜、真崎裕史)