【記者解説】血統牛DNA不一致を引き起こしたずさんな実態とは…


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 久米島町内の一部の家畜人工授精師が規定に反する種付け方法を行ったことで、異なるDNAを持つ子牛が高値で取引される「安福久」として出荷される事態となった。人工授精師が必要な知識や情報を把握せず、血統の混乱を防ぐために必須の書類記入が数カ月も遅れるなど、順守すべき事項が徹底されていなかった。安全性や信頼性が鍵となる「食」の現場で、ずさんな実態が浮き彫りになった。

 全国和牛登録協会は「和牛登録規定」で、21日間の牛の発情周期内に複数回にわたって異なる精液で種付けすることを禁じている。だが授精師がその規定を把握せず、結果的にDNA不一致につながった。種付け後に書く「授精証明書」の記入も数カ月遅れるなど、文書の管理も十分ではなかった。

 農水省の担当者によると、書類の取り違いを防ぐため種付け直後にその場で証明書を記載することが望ましいという。

 県の指導の不徹底もDNA不一致の背景にある。授精師によると、県の家畜保健衛生所の巡回は年に1回のみで、授精作業に関する指導はなかった。

 その結果、関係者の助言を仰ぐことなく間違った手順で授精作業が続けられた。
 DNA不一致の牛が安福久として市場に出回ったことで、県産牛のイメージ低下につながる恐れもある。信頼回復のため指導機関である県やJAおきなわが主体性を持ち、徹底した原因究明と再発防止に向けたシステム構築を図る必要がある。
 (石井恵理菜)