なぜ血統矛盾が起きたのか?今後の対応は? 識者に聞く


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 久米島町の家畜人工授精師が種付けした子牛から、優秀な種雄牛を父に持つという血統証明書と実際のDNAが一致しない「血統矛盾」が相次いで見つかっている問題は、全国に子牛を供給する沖縄の畜産市場の信用を揺るがす事態として波紋を広げている。「血統矛盾」が生じることの技術的な問題点や、関係機関がとるべき対応について識者2氏に聞いた。

 


 

「認識違いあり得ない」工藤俊一氏(県獣医師会会長)

工藤俊一氏 県獣医師会会長

 私も乳牛を飼育し、人工交配を自分の手でやっているが、牛の発情期間中に異なる種を付けるなどということは人工授精師なら絶対にしない。父親と子どもの関係が分からなくなってしまう。血統が重視される和牛ならより一層あり得ない話だ。

 授精証明書をきちんと書いていなかったというのも疑問だ。どの母牛にどの父牛の種を入れたかを明らかにするもので、その場で発行することがほとんどだ。

 百歩譲って後から発行するとしても、しっかり記録しておくのは当たり前のことだ。

 種付けに使う精液はストローに入っていて、一本一本に名前が書いてある。証明書に貼り付ければ間違えることはまずない。

 記録がずさんで親子関係が分からなくなれば、証明の意味がなくなってしまう。

 勉強不足、認識不足という次元の問題ではない。こういった問題が起きること自体が信じられない。意図的でないとあり得ないのではないか。現代では子牛の鼻汁などの粘膜を採取してDNAを検査すれば親子関係はすぐに分かる。何よりも自分だけでなく地域の信頼の崩壊を招く。普通の授精師は絶対にやらない。

 


 

「信頼回復と再教育を」玉城政信氏(沖縄畜産研究会会長)

玉城政信氏 沖縄畜産研究会会長

 和牛の競りは市場の運営者とバイヤーの信頼関係で成り立っている部分があり、DNA不一致問題で関係が崩れると、県外のバイヤーが沖縄の競りに来なくなる事態も起こりうる。故意性の有無は不明だが、同じ人工授精師の案件で何頭も不一致が出ている以上、JAは過去にさかのぼって購入者を特定し、DNA鑑定で不一致が出れば補償するなどの対応が必要だ。

 今後、DNA鑑定で不一致の件数が増えるほど県産和牛に対する信頼性は損なわれ、子牛価格の下落につながり、生産農家の経営にも大きな影響を与える。最悪の場合、沖縄の和牛農家が壊滅的な打撃を受けかねない。購入者への丁寧な対応は欠かせない。

 同時に人工授精師の再教育も必要になる。国家資格とはいえ、長年やっていると慣れや緩みが生じることもあるだろう。個々人に高い見識やモラルを持ってもらうため、免許証の更新のように数年に一度は講習を受けてもらうとか、県が主導して授精師を引き締める機会を増やすべきだ。

 今後、同じ問題を繰り返さないために、県やJA、関係団体が強固に連携し、再発防止の体制づくりに努めることが必要だ。