自民幹部「まだ沖縄振興が必要か」 人口増加、観光客数1千万超 復帰50年、薄れる理解 広がる県と国の温度差 〈沖縄振興を問う~自立への姿~〉①


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次期振計に向け、これまでの沖縄振興を検証していくことが確認された沖縄振興審議会=2019年6月14日、東京の中央合同庁舎4号館

 3月某日。那覇市の県庁には終業後も職員たちが沖縄振興の説明資料を作成していた。「沖縄のために汗を流してきた先輩たちの軌跡をここで途絶えさせるわけにはいかない。今が踏ん張りどころだ」

 沖縄振興特別措置法の期限切れまで残り2年。県は沖縄戦で沖縄の特殊事情は解消されていないとして基本的に法律の延長を求める方針だ。延長に向け、職員は連日、額に汗をにじませながら膨大な資料と向き合っている。

 一方、東京・千代田区の国会議員会館ではこうした県の思いをかき消すような言葉がささやかれるようになっている。「復帰から50年もたってまだ沖縄振興策が必要なのか」。自民党幹部は眉間にしわを寄せ、まくし立てるように記者に不満をぶつける。人口減少と過疎に苦しむ地域が地盤の同幹部には、人口が増加し、年間観光客数1千万人を超え、好景気の沖縄が「恵まれている」と映る。

 政権内で沖縄に思いを寄せる政治家が減り、沖縄振興の継続に理解が得にくくなっているのが現状だ。

 「新たな発想」

 「大胆さが感じられないんだよ」。沖縄振興審議官を務めた官僚は今の県政に不満を口にする。「例えばの話だが、金融都市機能をもたせるとか、新しい話が県にはつくれない」

 沖縄振興特別措置法の見直しは10年ごと。県側は見直しのたびに振興税制や使途の自由な一括交付金の導入など、全国の“先導的なモデル”の沖縄への導入を政府に働き掛けてきた。

 次期振興計画を巡っても政府関係者や沖縄関係部局からは、制度の単純延長を超える発想が必要だという声も聞こえる。

 内閣府関係者は「沖縄関係部局はポストのよりどころになっているのでやめるという話にはならないが、霞ヶ関にじっくり考える人がいない。そこを動かせるのは県だが、県は単純延長と言うだけで何も考えられなくなっている」と痛烈に批判する。

 継続の論拠

 復帰50年以降の沖縄振興をどのような形で存続させるか。現行制度の維持やそれ以上のものを求めるにもその論拠を提示することが最も重要な作業となる。

 そのため、新たな沖縄振興計画の策定に向けて富川盛武副知事の下で経済や財政、都市計画の専門家などを入れたチームで「新沖縄発展戦略」を練り上げている最中だ。

 昨秋には欧州の物流拠点などを視察し、効率的な港湾経営や環境対策を視察。新たな時代に対応する経済発展の要素を計画に入れ込んで4月にとりまとめる。ただ、政府内には辺野古新基地建設を巡る県との対立を念頭に、「そこまで沖縄に配慮する必要があるのか」(政府関係者)と突き放すような声が支配的だ。沖縄国際大学の前泊博盛教授は、翁長県政以降の政府の対応を「品格がない」と批判した上で「カードがなければ交渉ができない。カードはつくるものだが今の県政は手元にカードがない」と話す。

 前泊氏は「沖縄振興策がもたらしてきたもの、非正規雇用率の高さや第3次産業の肥大化、離島人口減少、進学率の低さなども直視するべきだ」と指摘。基地、公共工事、観光から、(1)基地返還跡地利用(2)公共事業は新規から維持へ(3)観光の高付加価値化―の新たな3Kへの転換を訴える。

 復帰から50年近くを経て沖縄振興の是非について沖縄と全国で温度差が生じている。こうした中での沖縄振興の計画の内容、実現へ必要な予算規模や制度はどうあるべきか。「沖縄をこれまで以上に発展させるために沖縄の行く先を示して実現させたい」。県幹部の一人は言葉に力を込めた。
 (知念征尚、中村万里子)

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 復帰後50年近くにわたる政府による沖縄振興は、戦後27年間米国に支配されたことや離島の点在、米軍基地の集中など沖縄の特殊な諸事情に鑑み、沖縄振興特別措置法に基づく沖縄振興計画を根拠に実施されてきた。次期振興計画の在り方を巡る国と県の協議は夏ごろから本格化する見通しだ。沖縄振興制度を巡るこれまでの経緯を振り返り、現状や課題を検証する。