コロナに血統問題追い打ち 子牛価格大幅下落 競り参加者に不信感も〈経済アングル2020〉


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 19日までに県内の7家畜市場で3月の子牛の競りが終了したが、平均取引価格は2月(隔月開催の市場は1月実績を加味)よりも7万2942円(13・5%)安い53万6394円となった。新型コロナウイルスの影響による牛肉の需要減の影響から全国的に価格が低迷しており、前年同月と比べると16万7093円(23・7%)という大幅な下落となっている。久米島家畜市場から出荷した牛の「血統矛盾問題」からの信頼回復という課題も加わり、農家は不安を抱えている。

 宮崎県での口蹄疫(こうていえき)発生や、東日本大震災で全国的に子牛が不足したことで、平均価格が70万円台になるなど、これまで「バブル並み」に価格が高騰していた。だが子牛の不足が解消しつつあることや、新型コロナウイルスの影響で枝肉需要が落ちたことで、取引価格が低下傾向にあった。

 その中で起こった久米島町内での血統矛盾問題。発覚後も競りを続けた背景に、JAおきなわ久米島支店の松元靖課長は「子牛の取引価格が低下する中で問題が明るみに出たら、購買者が不信感を持ち、競りの価格に影響してしまう」と説明した。

 町内農家も「購買者が来なくなるかもしれない」と取材に応じない農家も多かった。価格低迷の中で起こった血統矛盾問題を、農家はさらなる価格低下の要因と恐れていた。

 久米島家畜市場で問題公表後初めとなった子牛の競りは、取引価格が49万9551円となった。50万円台を割るのは2016年7月以来の水準となった。

 県畜産課の仲村敏課長は「(久米島の子牛取引価格の)下がり率は、他の市場と比べて突出しているとは言えない。新型コロナウイルスの影響がほとんどだろうが、今後は注視しなければいけない」と説明する。

 ただ、JAおきなわ久米島支店や久米島和牛改良組合がDNA不一致を把握した後も競りを続けたことに、不信感を持つ競り参加者もいた。水迫畜産(鹿児島県)の水迫政治氏(77)は「購買者は産地を信頼している。今回の事態はかなり不信感がある」「二度と起きないよう、うみを出し切ってほしい」と厳しい表情で語った。

 沖縄は全国4位の子牛の産地で、毎月県外から多くの購買者が訪れる。沖縄の和牛ブランドの信頼性を損なってしまえば、新型コロナの感染拡大の終息後に需要が回復しても、激しい産地間競争の中で沖縄の子牛価格が元の水準まで戻せるか難しくなる。

 石垣市の農家の50代女性は「競りは農家にとって生活の全てだ。なぜこのようなことが起こったか真剣に考えてほしい。形だけの指導にならないように、県やJAには再発防止に全力を尽くしてほしい」と話した。 (石井恵理菜)