「こんな金額じゃ到底生活できない」。本島中部に住む観光関連企業勤務の50代男性は深いため息をついた。新型コロナウイルス感染症の影響で予約が次々とキャンセルされ、仕事は激減。自宅待機を余儀なくされた2月の手取り収入は約9万円。1月以前の半分以下まで減少した。
アパートの家賃と光熱費を支払い、子どもの教育費を捻出すれば手元にはほとんど残らない。「会社が苦しいのは分かるし今の仕事は好きだから、簡単に辞めるつもりもない。でも、経営者は従業員の生活を守ってほしい」と切実な願いを口にした。
県経済は観光を中心に好調に外貨を稼ぎ好景気を続け、失業率も改善していた。2019年の完全失業率は2・7%と、日本復帰以降過去最低を更新した。賃上げも加わって所得が向上し、消費が増加するという好循環で拡大してきた。
しかし新型コロナで売り上げが急減する企業が続出。終息した後には再び人手不足になる事態も見込まれるため、特に正社員の解雇の動きは広まっていない。その代わり、休業手当などを補助する「雇用調整助成金」などを活用し、一時的に従業員を自宅で待機させる企業が増えている。休業手当は賃金の6割以上と定められているが、法定以上に出す企業は多くなく、所得の減少が問題となっている。
沖縄労働局によると、2月14日から3月17日までに、労働者83人から休業や解雇などについて相談があった。うち76人が3月に入ってからの相談で、担当者は「状況が深刻化していることから急増しているのだろう」と話す。
所得の減少は、県経済全体にマイナスの影響を与える。海邦総研の瀬川孫秀主任研究員は「解雇はしないという方針をしっかり持っている企業が多いが、労働時間調整をして所得が減っているケースも多い。所得が下がると消費も減少し、悪循環に陥りかねない」と懸念した。最近数年間好調だった賃上げについても「今年はかなり厳しくなるだろう」と見通す。
本島南部のバス会社に勤める観光バス運転手の40代の男性は、2月下旬に会社から自宅待機を言い渡された。昨年まで中国客を中心に多くの観光客を乗せて日々忙しく走り回り、1カ月に26日出勤したこともあった。2月も当初は予約で埋まりフル稼働する予定だったが、一転した。
会社側と以前に交わした約束では、月20万円程度を保証するとしていた。しかし2月末に口頭で提案された保証額は時給850円、月15万円を下回る額だった。「終息後も経営が厳しいからとそのままの条件にされるのではないか」と合意せず、うまんちゅユニオン沖縄観光支部(観光ユニオン)に個人加盟し、会社と交渉している。
会社に対し、雇用調整助成金の活用を提案したが「検討する」としか言われなかったことも不信感に拍車を掛けている。「同じように苦しい立場に立たされている人は多いと思う。賃金カットは最終手段のはず。会社は助成金でも何でも使って、賃金を守ってほしい」と訴えた。 (沖田有吾)