「ザル経済」の温床に 高率補助が基地依存脱却の足かせに 深まる自治のゆがみ 〈沖縄振興を問う~自立への姿~〉④


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 沖縄振興特別措置法に組み込まれた高率補助は公共事業の国庫の補助率をかさ上げする制度だ。道路や空港港湾など事業費の80~90%を国が補助する特例措置は、27年間の米国統治で遅れた社会資本整備を急速に進めることに貢献した。だが今後については、一部の有識者からは本土との格差がほぼ解消された今、制度を継続していくことは、自治のゆがみや相対的貧困を生み出すという指摘もある。

高補助率の「問題点」

 2018年6月、学者や公務員などでつくる沖縄自治構想会議は「沖縄エンパワーメント―沖縄振興と自治の新たな構想―」で高率補助制度継続の問題点を指摘した。主な内容は(1)公共投資に偏り、教育・福祉の予算の縮小を招く(2)土木建設業は経済発展効果が低く、本土大手企業に利益が還流する「ザル経済」や孫請けで、県内企業は低い利益率を甘受し非正規低賃金の劣悪な雇用や労働環境が常態化する(3)国の統制的な経済振興で県・市町村の依存を強化し、米軍基地の存続強化につながる―などだ。

 長年、国による振興体制を研究し、同構想策定の中心となった琉球大の島袋純教授は「利益還元政治が長く続き、役所は高率補助に頼りきっている。地方の住民が自治に参加するよりも“立派な会館”を造ることが評価される社会では今の制度を維持する力の方がはるかに強い」と指摘。今の制度の代わりに、沖縄関係予算の措置権限を知事に移すことを提案する。

 高率補助制度を沖縄振興特別措置法に組み入れた総務庁長官(当時)の山中貞則氏も同制度を通じて自治への懸念が出ると想定していた。総理府編集の「時の動き」1972年3月号のインタビューで山中氏は「中央権力が地方自治体の本来持つ権能を侵すのではないかとの意見があるが、無視できない」と述べている。

 日本復帰前の沖縄には「米国民政府がなくなっても、日本政府の監視事務所がそこにできるのではないか」との懸念があった。山中氏は「県民が県再建の担い手の誇りを持ち、こちらは沖縄の人たちに謝罪をもって国の力でできることは何でも手を貸す」と意義を強調した。

ザル経済脱却を

 ザル経済の課題について沖縄国際大学の前泊博盛教授は「どう埋めるか対策がなされていない。最大の課題だ」と話す。県建設業協会がまとめた「建設業の現況」の主要官公庁発注事業者別県内外契約状況では、17年度の総合計は1315億2800万円で、このうち県内は673億6500万円、県外は641億6200万円だった。

 沖縄総合事務局発注金額は県内が60・7%、県外が39・3%だが、沖縄防衛局発注額は県内が47・1%、県外が52・9%と逆転する。県内は単体受注が多いのに比べ、県外は共同企業体(JV)が多い。単体ではできない大型事業を手掛け、本土に金が流れている実態が読み取れる。

 「還流対策は、身の丈に合った工事をすることだ。本土の大手ゼネコンが沖縄の基地に依存し、被害だけが沖縄に残る構図をそろそろ抜けた方が良い」(前泊氏)。

 高率補助制度で教育や予算が縮小されているかについて県側の説明は異なる。17年度県普通会計決算では農林・土木費は住民1人当たり11万円で、全国平均の6万1千円を上回ったが、民生費、衛生費、教育費も1人当たり22万円で全国平均の15万5千円を上回った。高率補助制度で地方債の発行が抑制され、民生費などに回せると県は説明する。

 これについて沖縄国際大学の宮城和宏教授(経済学)は「高率補助の一括交付金や政府の貧困対策事業で支出可能な教育福祉分野を優先し、既存の補助率の高くない事業や一般財源を用いる事業は過小支出になっている可能性がある」と指摘する。一般財源を用いる就学援助の割合が低いことを根拠に挙げる。

 宮城氏は、鉄軌道や大型プロジェクトに関しては高率補助を維持し、必要性の低い公共事業は補助率を段階的に下げていくことなどを提起し「現状に固執せず、さまざまな可能性を検討していくことが重要だ」と指摘した。
 (中村万里子)

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 復帰後50年近くにわたる政府による沖縄振興は、戦後27年間米国に支配されたことや離島の点在、米軍基地の集中など沖縄の特殊な諸事情に鑑み、沖縄振興特別措置法に基づく沖縄振興計画を根拠に実施されてきた。次期振興計画の在り方を巡る国と県の協議は夏ごろから本格化する見通しだ。沖縄振興制度を巡るこれまでの経緯を振り返り、現状や課題を検証する。