一括交付金 ハード整備にも活用 箱物の必要性・維持費検証必要〈沖縄振興を問う~自立への姿~〉⑦


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 一括交付金(ソフト交付金)制度は2012年度に創設された。沖縄振興に資する事業を県や市町村が自主的な選択に基づいて実施できる。対象事業は観光、情報通信、農林水産、離島、教育などのほか、沖縄の特殊事情に起因する事業と幅広く設定された。ソフト交付金の創設以降、市町村は「観光」や「防災」を冠した拠点施設整備をこぞって進めた。ソフト交付金だがハードにも充てられているのが実態で、内閣府には「安易な箱物建設」と映り、“一発交付金”とやゆする向きもある。

赤字経営のドーム

 宮古島市平良にある5千人収容規模の「JTAドーム宮古島」は、ソフト交付金を活用し、総事業費約43億円をかけて17年に完成した。縦40メートル・横20メートルのフットサルコートを2面配置できる全天候型対応で大型興行イベントから地元老人会のグラウンドゴルフ大会、保育園の運動会まで幅広い用途で使用されている。

 ドームの基本的な維持管理費は年間約2千万円。一方、収入額は17年度は740万円、18年度は1030万円で年間約1千万円の赤字経営が続く。赤字分は市の一般財源から穴埋めしているが、市の担当者は「市の財政に具体的影響は出ていない」と強調する。

 市によると、年間利用者数は、13年に策定した基本計画で見込んだ数よりも、17年度を除いて上回っている。にもかかわらず、赤字が続く理由は公共団体や園児、高齢者らの使用料減免が収入額を押し下げているためだという。基本計画の収支では減免措置が想定されていなかった可能性がある。

 収容人数5千人という規模の大きさが市の人口や集客状況にマッチしない面もある。5千人の収容規模はフットサルやグラウンドゴルフでは十分なスペースとして機能するが、ステージを組むイベントだと「すかすかに見えてしまう。2千人収容くらいの規模感だと、使い勝手が良かったのかもしれない」(市職員)とこぼす。

町の財政を圧迫

 西原町はソフト交付金を使い、総事業費14億円余りで町役場の向かいに農水産物流通・加工・観光拠点施設整備を進めている。ソフト交付金の補助率は8割の高率補助だが、2割の裏負担が生じる。同施設整備費の裏負担は3億を超え、一般財源から充てざるを得ない。新庁舎や小学校建設などほかの施設整備が同じ時期に重なったこともあり、担当者は「(裏負担を)積み重ねていくと影響が大きくなる。財政が厳しくなっている」と話す。

 町はかつてソフト交付金を使って防災施設を造ろうとしたこともあったが町議会で否決された。今回の農水産物観光施設については住民や農家からの要望があったが「財政が厳しいのに造っていいのか」という声もあったという。町議会で施設建設費用を計上した予算案は賛否同数で、議長裁決となった。町は市民サービスや教育事業などに影響を出さないようにするため、一昨年度から町長や副町長ら幹部の給料を2割程度カット、町臨時職員数の削減、管理職手当のカット、町議の政務活動費の削減などで対応している。

 西原町だけでなく、財政規模の小さい市町村では特に施設整備や維持管理費が財政を圧迫するという専門家の指摘もある。ソフト交付金を使ったハード整備について沖縄国際大の宮城和宏教授(経済学)は「県や市町村は22年度以降も一括交付金制度の継続が必要だとしているが、箱物の必要性や維持管理費の負担、財政への圧迫についても十分な検証が必要だ」と指摘した。
 (真栄城潤一、中村万里子)

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 復帰後50年近くにわたる政府による沖縄振興は、戦後27年間米国に支配されたことや離島の点在、米軍基地の集中など沖縄の特殊な諸事情に鑑み、沖縄振興特別措置法に基づく沖縄振興計画を根拠に実施されてきた。次期振興計画の在り方を巡る国と県の協議は夏ごろから本格化する見通しだ。沖縄振興制度を巡るこれまでの経緯を振り返り、現状や課題を検証する。