北谷の助産師「自分らしく生き、経験生かす」 母親支援に熊本地震で奔走


この記事を書いた人 アバター画像 琉球新報社
沖縄に移住した甲斐由香さん(右から2人目)と家族=北谷町北前の由来助産院

 【北谷】「自分らしく沖縄で人生を楽しもう」と決意し、約1年前に生まれ育った熊本を離れ、家族で沖縄に移住した人がいる。北谷町で由来(ゆらい)助産院を開業している助産師の甲斐由香さん(42)だ。2016年4月に見舞われた熊本地震の際には地震の翌日から支援活動に尽力し、母親たちをサポートした。「あの涙はもう見たくない」と当時を振り返り、沖縄の母親たちの育児を応援している。

 長男の豊生(とよき)さん(9)が生まれたのは東日本大震災が起きる前年の2010年。6年後、熊本地震に見舞われた。

 甲斐さんは35歳の時に地元熊本で助産院を開業した。地震が起きた日、出産後間もない2組の親子が入所していた。余震が続く中、震える豊生さんを抱きかかえながら親子を励まし一夜を過ごした。翌朝、ことの重大さを知った。即座にフェイスブックで「おっぱいが止まりかけている人はいませんか?」などと母乳育児中の母親たちに呼び掛けた。支援したいという声も含め5万5千人以上のシェアがあったという。支援の輪が広がり震災から約2週間後、「マザー&アースくまもと」を立ち上げ、支援活動を本格化させた。避難所を巡り、おっぱいのトラブルやストレスを抱える母親たちの話に耳を傾けた。涙を流す母親たちの姿をたくさん見てきたという甲斐さん。震災から3年、助産師として母親たちを守ろうと必死で走り続けた。

 ふと、立ち止まった時、自分を置き去りにしていたことや我慢していたことに気づき、不妊治療を再開。待望の次男を授かった。「家族と自分を大切にしよう。大好きな場所に身を置いて自分らしく生きていこう」と沖縄移住を決断した。

 震災の日々を思い出したくはないという一方で、自身の経験を伝えていかなければいけないという思いもある。

 育児に不安を抱え、困っている母親の姿を見るとスイッチが入るという甲斐さんは「楽しんで子育てをしてほしい。その姿を見るのが私の喜び」と夢を語った。
 (中川廣江通信員)