企業誘致 雇用増えても人材不足 税制優遇延長も課題〈沖縄振興を問う~自立への姿~〉⑨


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企業誘致に向けて建設された「みらい1号館」=名護市豊原

 東アジアの中心に位置する沖縄の地理的優位性を生かし、那覇空港が国際物流拠点として活用されている。2009年に全日本空輸(ANA)の物流ハブ事業が始まって以降は国際貨物の取り扱い実績が大幅に増加した。ANAのハブ事業開始前の08年に1894トンだった国際貨物の取扱量は、2018年は約12万174トンと大幅に伸びたが、近年は伸び率の鈍化もみられる。県は製造業などの企業誘致に取り組むが、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大などもあり、沖縄21世紀ビジョン基本計画で掲げる21年度国際貨物取扱量40万トンの達成は厳しいとみられるなど、課題は山積している。

 ■「ハコ」稼働率6割

 名護市の熱望により02年に設けられた金融特区について同市は「沖縄のダイナミックな成長を支える経済金融の拠点」にすることを目指してきた。14年には「経済金融活性化特区」(経金特区)に発展的解消し、対象事業を観光産業や農水業に広めた。事業などで一定の企業誘致と雇用効果は生み出したが、人材不足が課題となっている。

 市は企業誘致に向けて施設面の整備にも取り組んできた。1999年から2018年にかけて「名護市マルチメディア館」など7施設を約100億円かけて整備した。施設整備には北部振興事業などを活用し、8~9割の国庫補助を受けながら現状の稼働率は6割程度にとどまる。

 1998年以降に市内に進出し、経済活動を展開する企業は今年2月末現在で48社を数え、1198人の雇用を生み出している。本土企業傘下のIT系企業が中心で、雇用者のうち市内在住者が約6割、約7割が正規雇用だ。「約250人を雇用する企業もあり、市内では名護市役所に次ぐ雇用主だ」と名護市は強調する。

 ■撤退企業50社

 ただ、特区の要件を満たし、税制の優遇措置を受けている企業は現在5社にとどまっている。現行では企業設立から10年間が優遇措置の対象となるが「認定を受けてから10年間に延長してほしい」という要望も企業から上がっている。

 一方、いったん進出し撤退した企業も1999年以降で約50社に上る。主要な要因の一つは人材不足だ。名護市の担当者は「どこで人材が眠っているか分からない。施設がある以上、人材育成にも力を入れていきたい」と強調した。
 (塚崎昇平、当間詩朗)

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 復帰後50年近くにわたる政府による沖縄振興は、戦後27年間米国に支配されたことや離島の点在、米軍基地の集中など沖縄の特殊な諸事情に鑑み、沖縄振興特別措置法に基づく沖縄振興計画を根拠に実施されてきた。次期振興計画の在り方を巡る国と県の協議は夏ごろから本格化する見通しだ。沖縄振興制度を巡るこれまでの経緯を振り返り、現状や課題を検証する。