琉球新報社 常にプレーの基準点は世界のスーパースター。成長するたびに現時点の自分と比べ、補うようにレベルを上げていく。そうして日本代表の候補となり、東京五輪での活躍を期待されるようになった。ハンドボール男子「彗星ジャパン」で、司令塔を任される27歳。東江雄斗（興南高―早稲田大、大同特殊鋼）。「日本人の強みであるスピードを生かし、全員が勝ちに行く姿勢を60分間出し切らないと勝てない。メンタルでは負けない」。チームを率いる覚悟と世界を欺くプレーで、海外の強豪チームを母国の地で迎え撃つ。
■模倣から本物へ
父の正作は日本リーグの大崎電気でプレーし、母の功子は日本体育大学で活躍した。兄の太輝（那覇西高―日体大、琉球コラソン）は日本リーグの湧永製薬のほか、ドイツリーグでも戦った経験を持つ。
東江は沢岻小1年で自然と競技を始めていた。神森中ではJOCの沖縄選抜として全国の頂点を経験した。県内で活動していた父の練習にも参加し、社会人のプレーも学んでいたが、特筆するべきは世界のスター選手の模倣だった。
かつて絶大的なスターだったクロアチアのイヴァノ・バリッチらのプレー集がまとめられたDVDを「ひたすら毎日みていた」という。正作は「雄斗は動きを覚えて練習し、成長していく自分と比較していた。新たな気づきを得て、自分のプレーに落とし込んでいく。中学から明らかに動きがうまくなっていた」。少年の頃から理想は世界最高峰のプレーだけだった。
興南高ではエースとして活躍したが全国高校総体は4強止まり。しかし、2011年の山口国体では少年男子の6年ぶりの頂点に貢献した。中高もそうであったように、早稲田大でも中核選手だった。関東学生春季リーグ、秋季リーグ、全日本学生選手権の三冠を達成した時には、2年次ながらスタメン入りし活躍していた。けがに苦しむ時期もあったが、日本代表に選出されるなど着実に国旗を背負う選手となっていた。
■鍵はステップシュート
2016年に日本リーグの大同特殊鋼に入団すると永久欠番となっていた大エース、ペク・ウォンチョルの背番号「20」がを与えられた。初シーズンで最優秀選手賞、殊勲選手賞、得点王、ベストセブン。日本代表として海外勢とも対戦するが、2年前の取材ではフィジカルの強化を挙げていた。体格と経験値を増した今は「フィジカルの差は埋まってきたし、1対1が抜けきれるようになった。ゲームも少しはコントロールできる。ステップアップはしている」と自信もある。
上背では勝てない海外勢対策はステップシュート。「ステップなら相手守備の手がくるまでにコンマ速く打てる。大きい相手に決めると気持ちいい」と勝機を探る。代表入りが確実視される中でも「ハンドは接触のスポーツ。けがをしないためにも、最後まで緊張感を持ってお互い切磋琢磨（せっさたくま）していくほうがいい」と語り、代表合宿でも「ライバル視する人はいない」と、大局的な視点に立つ。
男子ハンドボールの日本は開催国枠として予選が免除され、88年のソウル五輪以来32年ぶりの本大会出場となる。ソウル五輪は、ハンド競技として県勢で初めて荷川取義浩（北國銀行監督）が出場した大会で、父の正作が代表入りできずに沖縄に戻る転機となった大会でもある。
現在の彗星ジャパンにとって打倒はアジア勢。そして欧州。残り6カ月。「焦りはないが、体力、技術、メンタル知識、全部伸ばしていかないといけない」。万全で迎えた本番で「1対1でも負けずに相手守備をゴリゴリ割っていく」と、日本が世界と戦える事を証明する覚悟がある。
（敬称略）
（嘉陽拓也）
