新型コロナウイルス対応の緊急経済対策が見直された。当初予定の減収世帯向け30万円支給策が、国民一人当たり一律10万円支給に切り替わった。そのために、2020年度補正予算案を組み替える。国会提出前の予算案が、このスケールで組み替えられた前例はないという。
30万円案と10万円案のいずれが、より効果的か。これは一概には言えない。賛否両論あるだろう。筆者は、この際、一律迅速の方がいいかと思う。いらない人は返せばいい。返却可能性あるいは寄付選択制付き支給にしてはどうか。
それはそれとして、問題はこの方針変更に至る経緯だ。こうなったのは、ひたすら連立与党内の内輪もめの結果である。公明党が、30万円案に対して支持基盤から総スカンを食らった。そこで山口那津男代表が安倍首相に直談判し、10万円案への切り替えを勝ち取った。要は政争の産物だ。
人々の生活と生命が前代未聞の危機にさらされている。そのさなかでの政策決定が、こんなにも低俗な次元で進むとは、何たることか。茶番劇だと嘲笑したくなる。だが、思えば、これは、そのような形で軽く突き放すべき問題ではない。
与党内で慎重に真摯(しんし)に、力一杯、賢さを追求する。何が最も国民の皆さんのためになるのか。それを必死で突き止めようとして議論する。その応酬の中でたどり着いた結論なら、それがいったん決めた方針の変更につながってもいい。それなら、方針変更を躊躇(ちゅうちょ)する必要はない。だが、今回のから騒ぎは、このような経緯の中から出て来たものでは全くない。
連立与党の政治家たちは、自分たちがどんな職種の人間なのかを心得ていない。だから、こういうことになる。彼らはサービス事業者である。国民を唯一最大のお得意さんとするサービス事業者だ。彼らは、常に至高の顧客満足度を追求しなければならない。そうでなければ、税金を納めてくださいと国民にお願いする資格を失う。ところが彼らは、自分たちの点数稼ぎと減点回避で常に頭が一杯だ。今この時、こんな連中に政策運営が託されているのである。言葉を失う。
(浜矩子、同志社大大学院教授)