<新型コロナOISTによる洞察>1 微生物と密接に関わる人間の命 脅威を正しく理解する


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ピーター・グルース氏

 新型コロナウイルス感染症(COVID19)が、世界中で健康衛生における緊急事態を引き起こしています。感染を減らし、命を守るために私たちにできる対策があります。社会全体が感染症のことを理解すれば、さらに強力にウイルスに立ち向かうことができます。

 ウイルスはどのように種の境界を飛び越え、人間に壊滅的な影響を与えるのでしょうか。このような疑問に対する答えを知ることで、人類を将来の新たな感染症から守ることができます。沖縄における感染症への意識を高めるために、OISTの研究者とともに連載記事を寄稿します。

 人類の生命の歴史は、良くも悪くも微生物と密接につながっています。人間は微生物なくして生存することはできません。私たちの体は37兆個の細胞でできており、同じ数の腸内細菌によって食べ物を消化して生きています。

 地球上に存在した生物には、常に体内に微生物がいました。ウイルスも生命の進化の初期に現れました。感染症の流行やパンデミックの発生は、人類の歴史を通して記録されています。

 例えば、天然痘ウイルスが引き起こす天然痘は、エジプトの3千年前のミイラからも見つかっています。古代エジプト時代のパピルス絵画にはポリオウイルスが原因で起こるポリオなどの感染症が描かれています。

 日本では、735年から737年にかけて、天平の疫病(天然痘)大流行が起こり、人口の約三分の一が亡くなりました。天然痘は高い感染力を持ち、感染すると衰弱して死に至ることもあります。半世紀前は感染者の10人に3人が亡くなっていました。しかしその後、世界中で予防接種が広まり、天然痘はもはや脅威ではなくなりました。1977年までに消えうせ、人間の疾患で唯一根絶された病気となっています。

 1918年には、スペインかぜというインフルエンザが世界的なパンデミックを引き起こしました。急速に広まり感染者が次々と亡くなりました。年齢や疾患の有無に関わらず、あらゆる人が感染し、少なくとも感染者の10%が死亡しました。日本にも感染の波がやってきて、関連した肺炎で約35万人が亡くなりました。正確な数は推定によって変わりますが、世界の人口の約3分の1が感染し、5千万人以上の死者が出たと考えられており、現代史上最悪のパンデミックとなりました。

 コロナウイルス科も起源は古く、科学的な解析で5500万年前までさかのぼり、コウモリや鳥類の進化と密接に関連していることが分かっています。多くのヒトコロナウイルスはコウモリが発生源であると考えられます。

 COVID19は昨年12月に中国の武漢で初めて確認され、世界中に広まりました。公開されているデータによれば、今年4月28日の時点で、185カ国で300万人以上が感染し、21万6千人の死者が出ています。まだパンデミックの終わりは見えていません。

 国境を越えて密接につながった21世紀の世界では、これまでにないほどウイルスの感染拡大が容易になっています。次回は、ウイルスがどのように増幅し、他者に感染するのかをお伝えします。

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ピーター・グルース

 Peter Gruss 沖縄科学技術大学院大学(OIST)学長。1949年ドイツ生まれ。ハイデルベルク大で分子生物学博士号。マックス・プランク学術振興協会会長を経て2017年から現職。ドイツ連邦共和国功労勲章など受賞歴多数。