医療・コロナ最前線 命綱は再利用マスク、隔離機材は「半年後」 県立中部病院(上)


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ICUに入る前、呼吸器防護具をしっかりと着けているか確認する医師ら=1日午前10時すぎ、うるま市の県立中部病院

 新型コロナウイルスの感染症指定医療機関となっている、うるま市の県立中部病院。集中治療室(ICU)は新型コロナの重症患者専用として使われる。自動ドアが開くと、治療のため中に入る数人の医師らが呼吸器防護具を着けていた。「着脱をきちんとできるかが命の分かれ目になる」。同院の感染症対策を統括する椎木創一医師(45)や、周囲の医師がきちんと装着できているかを確認し合う。防護具は医師らにとって感染から身を守るとりでだ。

 中部病院は多くの新型コロナ患者を受け入れてきた。一般の入院患者数を減らし、医師や看護師のマンパワーを新型コロナ対応に集中する。しかし医療用マスクやガウンなど資材は不足している。椎木医師は「限られた資源で、どのように感染対策と患者の診療ケアを両立させるか、手探りで挑戦的な話だ」と難しさを語る。

新型コロナ対策本部でその日の動きや課題について話し合う職員ら=1日午前8時半すぎ、うるま市の県立中部病院

 ICUにいる重症患者は、気管内挿管などの際に大量に「エーロゾル」という微粒子を発生させる。医師がこれにさらされれば感染するため、厳重なマスクや呼吸器防護具が必要となる。しかし、それが足りていない。

 すぐそばに一度使われたN95マスクが透明の袋に入って洗濯ばさみでつり下げられていた。「手に入らないマスクを再利用するための苦肉の策なんですよ」。医療現場の“ぎりぎりのライン”が垣間見えた。

 新型コロナの感染は県内でも拡大する。県内の医療機関は防護具が不足する中で、感染防止策を施しながら未知のウイルスと闘う。緊張に包まれる医療現場の最前線を伝える。

新型コロナ患者病棟に入るため、エプロンを着ける看護師=1日午前10時半すぎ、うるま市の県立中部病院

 5月1日午前8時30分。うるま市の県立中部病院では、約50人の医療スタッフが全員立ち上がって「患者中心主義、社会的貢献、チームワーク」と唱和していた。朝の全体会議だ。玉城和光院長はスタッフの前に立つと、集中治療室(ICU)にいた新型コロナ重症患者が回復し、一般病棟に移ってトイレに行けるほど元気な様子だったと報告した。「助けていただいて、ありがとうございます。家に帰れるのは本当に喜びだと思います」。スタッフへの感謝の言葉とともに、予防策で身を守るよう呼び掛けた。

 県内での新型コロナ患者の増加に伴い、感染対策と治療を指揮するために同院が早々に立ち上げたのが、院長をトップにする「新型コロナ対策本部」だ。感染症統括の椎木創一医師ら専門の医師と看護師らが感染防止策を練り、職員らの指導に当たる。玉城院長は「彼ら(椎木医師ら)がいなかったら(医療現場が)崩壊していた」と話す。

 一方で現状について「マスク、ガウンが不足している。国がやることを待っていられない。マスク1日1枚で対応していたら、確実に職員は感染する。とにかくマスクなどを確保する」と窮状を吐露する。

 手に入れた医療用資材などをチェックするのが、感染管理を学んだ松山亮主任看護師(47)と富山辰徳看護師(38)だ。松山氏は「(スタッフは)命を懸けて現場に入ってもらうので責任がある。できる範囲で最高のやり方を考え出さないといけない」と気持ちを引き締める。

ICUの手前の空気感染隔離ユニットは、病院側の工夫で2台設置された=1日午前10時すぎ、うるま市の県立中部病院

 マスクやガウンなど以外に不足しているのが、室内の空気が外に漏れない構造にするための空気感染隔離ユニットだ。玉城院長によると「(ユニットを)10台くらいください、と要望したら『半年後になります』と言われた」。限られた機材を効果的に使うため、同院が保有する3台のうち2台をICUの前に置く。1台だけでは圧が弱く、空気が漏れることが分かったためだ。

 重症ではない新型コロナ患者の病棟は、透明のプラスチックのカーテンで病室と廊下を仕切っている。看護師の装備は簡易なエプロンと手袋、フェースシールドだ。ICUとの違いについて「どんな人にも感染対策を強烈にやっていては、物や人が足りなくなる。リスク別に対策をすることが重要だ」と椎木医師は説明する。もちろん手指衛生などの基本予防策は必須だ。

 チームワークと工夫で乗り切る日々が続く一方で、終わりが見えない闘いにスタッフの戸惑いも募る。県内の新規感染者が減少傾向となっていた1日、同院の新型コロナ対策本部では、ICUをコロナ患者専用として維持するか議論が交わされた。新型コロナ患者の治療に注力するため、現在は一般の入院患者の受け入れを一時的に抑えている。

 一般病床の空きが増えると、病院の収益に影響が出る可能性もある。スタッフからは「もうこの病院、財政的に持たないよ」と懸念の声も上がる。政府の緊急事態宣言延長方針が報じられ、スタッフのいらだちは増すばかりだ。玉城院長は「大型連休後、あと1波、2波来るんじゃないかと思っている。当然それを予想し、(感染が)落ち着いている時も気を緩めない、というのが当院の取るべき方向性だ」と語り、理解を求めた。
 (中村万里子)