医療・コロナ最前線 患者と家族 機器で面会 「最期の別れ」も形変え 県立中部病院(下)


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 新型コロナウイルスに感染した患者は家族と面会することができない。患者にとっては家族と話したり触れたりすることが闘病への力になるが、それがかなわない。新型コロナは家族と過ごす最期の時間の形も変えている。

スマートフォンで家族と会話を交わす新型コロナウイルスの患者(長野医師提供、画像を一部加工しています)

 複数の新型コロナウイルス患者をみとった県立中部病院の長野宏昭医師(40)は「患者の力になりたい、穏やかに過ごせるように手伝いたいが、患者が家族の支えを得られないことに無力感を感じている」と話す。

 患者と会えないことで家族にも深い悲しみが生まれる。長野医師は毎日、重症患者の家族に電話で病状を報告しているが、その悲しみに触れ、少しでも患者と家族を支援しようとiPadを導入した。家族が希望すれば患者の近くにiPadを置き、顔を見ながら会話をしてもらう。孫の顔を見て笑顔になったり、意識がなくても和らいだ表情を見せたりする患者や家族の喜ぶ姿を見てきた。

 長野医師が付き添い、iPadで最期の別れの時間を持つことができた夫婦がいる。50年連れ添った夫は新型コロナウイルスに侵され重篤だった。「苦しんでいる姿は見たくない」とテレビ電話を断っていた妻に長野医師は「きょう、あすにも亡くなるかもしれない」と伝え、iPadを通じた会話を勧めた。妻は受け入れ、意識がほとんどない夫に向けて涙を流しながら「お父さん、頑張ってね」と声を掛け続けた。夫も穏やかな表情を浮かべていたという。

 新型コロナウイルス患者は、亡くなった後も遺族が遺体に触れることや、遺体と過ごす時間が取れない。長野医師は「遺体と過ごして家族に十分悲しんでもらう時間が大事だが、この病気の場合にはそれが難しい。家族の深い悲しみが残る。そのケアをどうするかが課題だ」と話した。

 患者を支える医療従事者らの心理的負担も重い。長野医師は「助ける側なのであまり弱音を吐かないが、疲労や苦しみは今後蓄積していく可能性がある」と懸念する。同院の職員の中にも自治体が用意したホテルから通い、家族と会えない人もいる。日常や普段の仕事内容が様変わりし、心理的負担が増えている。

 長野医師は同僚らに声を掛け、院内に医療スタッフの心理的ケアを行う「メンタルサポートチーム」を立ち上げた。長野医師のほか、精神科医、臨床心理士、産業看護職、事務職で構成する。「職員が辞めたり燃え尽きたりすると即、医療崩壊につながる。病院の職員を守る必要がある」と支援に取り組む考えだ。

 県民にもこういう時だからこそ温かい気持ちで患者や家族に接してほしいと望む。「正しい情報で不安をコントロールし、患者や家族を傷つけることがないようにしてほしい」。長野医師らの切実な思いだ。
 (中村万里子)