カメラの向こうの観客に「見てくれて幸せ」 ライブハウス、有料配信で存続模索<舞台の灯をつなぐ―コロナ渦の先に①>


この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子
観客のいない会場でWEB配信用のカメラに向かってパフォーマンスするあかりさん=4月3日、那覇市のOutput(一部画像を加工しています)

 「みなさんが見てくれていることが本当に幸せです」
 那覇市のライブハウス「Out put」は4月3日、オープン以来初の有料配信ライブに挑戦した。県内で活動するアイドル・One―Opのあかりさんの明るい声が、観客のいないホールにこだまする。普段ならあるはずの観客からの手拍子や声援もない。それでもあかりさんはカメラの向こうの観客に元気を届けようと、最後まで全力で歌い踊り続けた。

 ライブハウスは新型コロナウイルスの流行初期段階で政府の専門家会議から、一人が複数に感染させてウイルスの感染者集団(クラスター)が発生する危険性の高い空間だと指摘を受けた。指摘を受けて県内の各ライブハウスは、2月末から入り口でのアルコール消毒、換気の徹底など手を尽くして開催方法を模索したが、やがてほぼ全てのライブの中止や延期を決定した。

 那覇市のライブハウスG―shelterは、4月のイベントがほぼなくなり、8日からの無期限休業を決めた。会場に入れる観客は約30人。黒澤佳朗オーナーは「必要なコストだけを考えると半年はもたせられるだろうが、そこから先は店を畳む選択肢も出てくる。コロナが終息しても、『3密を避ける』という考え方がいつまで残るか分からない。社会の流れが読めない時点で再開時期の明言は難しい。また、自主的な休業であり、補償も求めづらい」と声を落とす。

 約200人の入場ができる空間を有するOutputでは、3月と4月の売り上げは8割の減少が見込まれるという。上江洲修店長は「状況を見て休業も有り得る。絶望感とも言えるものがある」と話す。それでもなんとかライブの楽しみを観客に届けようと始めたのが、有料配信だった。

 3日、ステージの前には配信用のカメラやパソコンが設置され、会場で数人のスタッフと出演者がライブの様子を見守っていた。ライブにはあかりさんのほか、きいやま商店のリョーサさんら計4人が出演した。有料配信を見るための電子チケットは1500円。チケットを買った観客はチャットで「見られるだけでうれしい」「安すぎでは? 3千円でも良かった」と、エールを送った。

 司会を務めたスカパンクのボーカル・下條スープレックスホールドさんは「実験的な試みだったが、今ライブをやるにはこの方法しかないと思った」と手応えを語る。ただ、バンドメンバーに、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために医療の最前線で働く看護師がおり、自身のバンド活動は休止状態だ。それでも現状を「ラウド(大声を出す)系のバンドなので声が出なくなってはいけないから、口に枕を当てて家で大声を出しているよ」と笑い飛ばし、「気持ちを切り替えて、前に進む」と瞳を輝かせた。
 (藤村謙吾、青山香歩)

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、県内でも2月末から公演やイベントの中止・延期が相次いでいる。政府はイベント自粛を要請する一方で、現在までに決定的な支援策を打ち出せていない。県内の文化芸能関係者の窮状を受けて県芸能関連協議会は15日、県に文化芸能関係者への緊急生活支援策などを求める要望書を手渡した。厳しい環境の中で、舞台の灯をつなごうと苦闘するライブハウスや劇場、芸能関係者の姿を紹介する。 (毎週金曜日掲載)