文化芸術は不要不急か? 「芸で人の心をケア」鍛錬を続ける琉球芸能の実演家たち <舞台の灯をつなぐ―コロナ渦の先に②>


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道場の代わりに自身が経営する店舗で稽古をする平敷勇也さん。動画配信も店舗から行った=22日、沖縄市

 毎年5月になると、沖縄芝居の劇団が各地で「母の日」公演を催し、盛況に舞台を終える。観客数減少や後継者不足が叫ばれる沖縄芝居が、かつての活況を取り戻す日でもある。しかし、ことしの沖縄芝居「母の日」公演は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から全て中止になった。公演を予定していた劇団与座の与座ともつね座長は「母の日が沖縄でも始まったときから、数十年以上興業してきた。中止にするのは初めてだ」と声を落とす。

 劇団与座は公演に向けて、2月から稽古を始めた。芸の継承を目的に、80歳代の与座座長がわきを固め、孫の世代に主役級を務めさせる予定だった。公演中止を決定した4月初めには、すでにチラシやチケットなどの準備を終えており、それらの印刷代、稽古場の使用料は戻ってこない。「公演には生活が掛かっている。なんらかの補助がほしい。8月に公演が決まっているが、準備をいつから始めるかなど決められない。他の劇団も同じだろう」。

 出口が見えない中、若手実演家たちは、SNSを通じて芸を発信する取り組みを始めている。舞踊家の平敷勇也さんは18日、フェイスブックで一人で鳩間節を踊る様子をライブ配信した。「正直何をしていいか分からないが、分からないまま終わるのは嫌だった」と配信を振り返る。

 一方、県芸能関連協議会(沖芸連)は15日、イベント中止・延期が続く県内の文化芸能関係者への緊急支援策などを求める緊急要望書を、富川盛武副知事に手渡した。要望書を手交した沖芸連の玉城節子副会長は「沖縄の文化を現場で支えている方たちが孤立して追い詰められている。一度失ったものを取り返すことは難しい」と訴えた。

 要請には「琉球古典音楽」の人間国宝・中村一雄さんも同席し、1945年にうるま市(当時)で開催し、沖縄戦で傷付いた人々の心を癒やした「クリスマス演芸大会」を例に、芸能の果たす役割の大きさを訴えた。「文化芸術は不要不急な娯楽ではなく、社会を多様に創造的に育てるインフラだ」と力を込めた。

 玉城副会長は、琉球舞踊の会派・玉城流翔節会の家元でもある。那覇市の道場には、普段から10人前後の弟子が出入りし、琉球古典芸能コンクールや発表会の時期には40人あまりが集まり技芸を磨く。しかし、県内でコロナウイルスの感染者が相次ぎ、3月末からは稽古を休みにした。稽古料などの収入が断たれたが、道場の土地代や建物代が重くのし掛かる。

 玉城副会長は「収入がゼロだ。それでも私たち(実演家)は、自己鍛錬を欠かしてはいけない。この先、芸で人の心をケアすることが求められる」と道場で一人、芸を磨く日々を送る。
 (藤村謙吾)
 
 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、県内でも2月末から公演やイベントの中止・延期が相次いでいる。政府はイベント自粛を要請する一方で、現在までに決定的な支援策を打ち出せていない。県内の文化芸能関係者の窮状を受けて県芸能関連協議会は15日、県に文化芸能関係者への緊急生活支援策などを求める要望書を手渡した。厳しい環境の中で、舞台の灯をつなごうと苦闘するライブハウスや劇場、芸能関係者の姿を紹介する。