動画配信が加速するお笑い業界 新たなつながりに期待も<舞台の灯をつなぐ―コロナ渦の先に③>


この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子
配信用にiPadを用いて動画を収録。ヘディングでバケツにサッカーボールを入れるぎぼっくす(右)=4月22日、那覇市安里のFECオフィス

 「ジョージ紫さんと一緒に県に提言するなど、昨日まで全く想像していなかった」。「沖縄エンターテインメントに携わる有志の会」の一人として、FECオフィス代表の山城智二さんは4月21日、支援策などを求める緊急要望書と賛同署名を手渡すため、県庁に富川盛武副知事を訪ねた。

 ウェブ上で、県内のエンターテインメント関係者向けに署名を募り、4月17日から同20日までに2624筆が集まった。山城さんは「今までつながれなかった人たちとつながれている。今後の新しいエンターテインメントの在り方が見つかるのではないか」と前を向く。

 各業界で営業の自粛が余儀なくされ、先行きが見えないコロナ禍の影響を受ける中、お笑い業界でも動画配信の動きが加速する。約30人の芸人が所属するFECオフィスでは一部の芸人が、動画投稿サイト「ユーチューブ」などSNSを使って投稿を始めた。工作やサッカー好きな芸人などが発信する。山城さんは「よりパーソナルな方向で普段から自分が好きなことを徹底的に掘り下げて見せる。そこに可能性を感じている」と語る。

 オリジン・コーポレーションは3月28日から、那覇市ぶんかテンブス館テンブスホールでの定期ライブを無観客ライブの生配信に切り替えた。ユーチューブチャンネル「ワラしがみ」から生配信し、スーパーチャット(投げ銭制度)を利用した。事務所マネージャーの池根愛美さんは「チラシやポスターなど運営にかかる経費のマイナスを少しでも緩和したかった」と話す。

 2017年に「せやろがいおじさん」こと榎森耕助さんが開設したユーチューブチャンネル「ワラしがみ」はチャンネルの登録者数が26万人を超えるなど反響も大きい。チャンネルでお笑いライブのほか、所属芸人のネタ紹介や企画物の配信を始めた。榎森さんは「ネットで影響を持ったりコンテンツをつくったりしないと難しいと思っていた。がっつり取り組むチャンスになると思う」と見据える。

 よしもとエンタテインメント沖縄には53人の芸人が所属する。芸人の空馬良樹(くうばよしき)さんは自粛が長引けば、生活に追われ芸人を辞めてしまう人も出てくると危惧する。一方で、所属事務所の独自のコロナ救済措置にスタッフの温かさを感じたという。3月に劇場公演を予定していた芸人に出演料の半額が補償されたほか、よしもと沖縄の公式ユーチューブチャンネルにネタを紹介した芸人への支援金がある。

 今後も閉塞感の漂う状況は続くと考えられる。空馬さんは「配信から『がんばれ』とたくさんのエールをいただくことがとても励みになっている」とファンやスタッフへの感謝の思いを吐露し、仲間と再びライブに立つ日を願う。
 (田中芳)