東京五輪で金メダル最有力候補に挙げられている空手道男子形の喜友名諒(29歳、劉衛流龍鳳会)は、世界中を転戦する日々が一変し、自宅や道場で過ごす時間が増えた。それでも「マイナスに考えても前に進めない。今の状況でどうすればレベルアップにつながるか工夫している」と緊張感が緩むことはない。
2016年から東京五輪出場権を争うポイント獲得のため、毎月のように世界大会を転戦し、96試合を勝ち続けてきた。試合勘は身に付いたが、形の細部を磨き上げる時間は限られていたという。時間が与えられたことを好機と捉え「形を一度ばらして、基礎から組み立て直す」と話す。
師匠の佐久本嗣男氏の道場に毎日通い、換気や消毒など細心の注意を払い稽古を続けている。稽古は一人でもできるというが「緊張感が全然違う。集中して毎日できている」と言う。実際に道場での気付きは多い。ことしのテーマであるスピード感を上げるために、佐久本氏とメニューを組み直し、リズムや表現の仕方など細かく指摘を受ける。「自分の感覚と先生の言葉が一致する時に、どのような動きだったか分析して、いつでも出せるようにする」と深化を追い求める。
増えた自宅での時間は、新しいことよりも普段の筋トレやストレッチをさらに追究する。「筋肉への効かせ方が分かってきた」と力の入れ方や部位、方向を意識して行い「身体を使うのは空手と同じ。感覚のつかみ方は似ている」と楽しみながら身体と向き合う。柔らかさを身に付けるために、ストレッチに力を入れて関節の可動域を広げることにも取り組んでいる。
運営する喜友名龍鳳館の子どもたちへの稽古はビデオ会議アプリの「Zoom(ズーム)」で行い、場所を広く取らないメニューにしている。約50人を相手にするため細部の指導には不便だが、「最大限できることをやる」と自宅にいる保護者も巻き込んで、全員で楽しみながら教える。「時間は皆平等。だらだら過ごさないでほしい」という思いから、子どもたちには「今ならいつもより練習できるねー」と笑って呼び掛ける。
ことし11月には前人未踏の4連覇が懸かる世界選手権(ドバイ)が控える。新型コロナウイルスの影響が憂慮されるが、モチベーションは下がっていない。「常に向上し続けているのでいつ試合が来てもいい。今の状態を出せば勝てる」。来たるべき大舞台に備えて待つ。
(古川峻)