<新型コロナOISTによる洞察>3 感染者を特定するには PCR検査の積極的活用を


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(左から)ピーター・グルース氏、メアリー・コリンズ氏

 今回は、最善のウイルス感染予防策と感染後のウイルスの正確な特定について、OISTのメアリー・コリンズ博士とともに説明します。

 パンデミックは、人間の力を超えた、「進化」が引き起こす自然現象です。ホモ・サピエンスは誕生してわずか20万年しか経っていませんが、ウイルスには10億年の歴史があります。

 幸いにも、人類は互いに助け合いながら、ウイルスの予防法や治療法を開発してきました。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID19)のワクチンは未だ開発されておらず、私たちは感染予防に努めなければなりません。

 マスクの着用や学校の休校、イベントの中止なども一助となりますが、効果はまだ限定的です。OISTのシモーネ・ピゴロッティ准教授らの分析によれば、感染拡大予防に最も効果があるのはロックダウン(都市封鎖)で、集団を避け、買い物や運動以外は不要不急の外出をせず、極力自宅で過ごすようにすることだとしています。

 感染者との接触による感染拡大を防ぐことが重要です。感染者の呼吸や咳によってウイルスが含まれた空気を吸い込んだり、感染者が触ったものに触れたりすれば、ウイルスはいとも簡単に口や鼻に入り込み感染が広がります。だからこそ消毒やその他の衛生対策が重要なのです。

 また、これらの予防策に加えて、迅速かつ正確なCOVID19検査の開発も必要不可欠です。PCR検査とは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて新型コロナウイルスの遺伝物質を検知する検査法で、高い正確性と感度を持つことで知られます。

 OISTは沖縄県のPCR検査に協力しています。現段階では、検体を受け取ってから検査結果を知らせるまでに最長で1日かかります。しかし、検査時間は技術の改良によりさらなる短縮ができると見られ、最終的には1時間以内に結果がわかるようになる可能性もあります。

 誰がPCR検査を受けるべきでしょうか。PCR検査は鼻やのどの奥にある活性ウイルスを検知し、他の人にうつしそうな人を特定することができます。沖縄も含め日本では、医師によりCOVID19の症状が認められた人、およびその濃厚接触者がPCR検査の対象となります。

 PCR検査をさらに積極的に活用することもできるでしょう。例えば、飛行機や船での渡航前にすばやく検査を行うことも可能です。空港や港湾での混雑を避けるため、旅行者が出発直前に自宅の近くで検査を受けられるようにしたり、東京オリンピックなど人が大勢集まるイベントに適用することもできるでしょう。

 沖縄県民全員に対してPCR検査を実施することは、おそらく妥当ではないでしょう。県内の感染状況を調査するのであれば、PCR検査ではなく、血中の抗体を調べる検査が有効です。回復したらいなくなるウイルスとは違い、抗体はその後も長く体内に残るため、抗体検査で、過去にウイルスに感染して回復した人を調べることができます。

 OISTのマティアス・ウォルフ准教授は県と協力して、沖縄県内の病院患者数千人を対象に、新型コロナウイルスの抗体を調べるための抗体検査を研究ラボで行います。これにより県内の感染の広がりが見えてくるでしょう。将来的には、指先から血液を数滴採取して、自宅で抗体を調べることもできるようになるでしょう。しかし、現時点で存在するそうした抗体検査キットは正確性や信頼性に課題があると見られており、その使用については意見が分かれています。

 はしかやおたふく風邪、風疹など一部のウイルスは、子どもの時に一度かかれば、その後長年にわたって身体を再感染から守ります。しかし、新型コロナウイルスについては、免疫反応の持続期間や防御効果が未だわかっていません。その他のヒトコロナウイルスを見てみると、一般的な風邪を引き起こすウイルスなどは免疫が持続しないと考えられる一方で、SARSコロナウイルスは持続的な免疫反応があります。したがって、新型コロナウイルスの軽度の症状が出た後に抗体検査で陽性反応が出たからといって、再感染しないと考えるのは短絡的であり、免疫については今後さらに研究が必要です。

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ピーター・グルース

 Peter Gruss 沖縄科学技術大学院大学(OIST)学長。1949年ドイツ生まれ。ハイデルベルク大で分子生物学博士号。マックス・プランク学術振興協会会長を経て2017年から現職。ドイツ連邦共和国功労勲章など受賞歴多数。

メアリー・コリンズ

 Mary Collins 沖縄科学技術大学院大学(OIST)プロボスト。英国出身。ケンブリッジ大学で生物化学博士号。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの感染免疫学部門を率いた後、同大学の生命科学研究科長等を経て2016年にOIST着任、18年から現職。