キャンセル相次ぎ苦境 県内フリーランス 保護策整わず、もろさ露呈


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 新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛や緊急事態宣言で、フリーランスで働く人たちにも大きな影響が出ている。フリーランスは内閣府試算で約300万人、就労者全体の5%程度を占めるとされる。政府は「多様な働き方」を推奨してきたが、一般労働者のような労災補償や解雇規制などの補償が受けられないなど法律上保護される制度が整っておらず、もろさが浮かび上がっている。 (青山香歩、田中芳)

ヘアメークの予約はなくなったが、練習を毎日欠かさない平良暁子さん(本人提供)

 ◇ヘアメーク

 沖縄県の主要産業である観光業の新たな資源として期待されているのがリゾートウエディング。実施組数も過去最多を更新し続けており、国も県も付加価値の高い観光メニューとして推進する。そんな「リゾ婚」の現場には、フリーランスで働く県民も多い。

 恩納村在住の平良暁子さん(34)も昨年会社を退社し、今年1月からフリーランスとして、結婚式などのヘアメークを手掛ける。依頼は結婚式場などからが9割、残り1割は直接受けている。繁忙期の3月、4月は、ほぼ毎日予約が入っていたが、3月ごろ、メールやLINEでキャンセルの連絡が連日送られてくるように。4月の仕事はほぼゼロになった。「最初の頃は少し休めると楽観的に思っていたが、日に日に不安が増していった」

 平良さんは、キャンセル料は前日など急な場合以外は取っていない。月収は5分の1に減った。売り上げが前年同月比で50%以上減少した中小企業やフリーランスなどの個人事業主向けの「持続化給付金」も、平良さんの場合は創業が1月のため対象とならない。今は貯金を取り崩して1人で7歳と2歳の子どもを育て生活する。感染が収束しても、すぐに観光業が回復するのは厳しいとの見方がある。「今後を考えると先が見えない。休校も延長され、正直限界を感じている」と胸の内を明かした。

ヘアメークの予約はなくなったが、練習を毎日欠かさない平良暁子さん(本人提供)

 ◇司会業

 2月末、安倍晋三首相が感染拡大防止のため全国的なスポーツや文化イベントの中止や延期、規模縮小を要請すると、結婚式もキャンセルや延期が相次ぐようになった。本島北部の古謝わかなさん(32)は結婚式やイベントでの司会業に携わる。例年4月は、週末は披露宴や人前式で日程が埋まるという。だが、現時点で8月までの披露宴の仕事はなくなった。

 「持続化給付金」の申請を済ませたが、給付がいつになるのか、申請が通るのかも分からない状態だという。フリーランスの仲間の中には、申請に必要な給与明細や出勤表など証明書類がなく頭を悩ませる人も多いと聞く。国民1人当たり10万円を給付する特別定額給付金の申請書が届く前に自動車の納税書が届き、動揺した。

 心揺れる毎日に「もし(持続化給付金の)審査が通らなかったら、さらに苦しくなる。心のストレスでかなりの大打撃を受けている。心に寄り添う対応を考えてほしい」と、政府に迅速な対応を訴えた。

 ◇インストラクター

 県の休業要請などを受け、スポーツクラブは休業に追い込まれた。ヨガインストラクターとして7カ所のスポーツクラブやカルチャースクールと契約する本島南部在住の40代女性は全ての仕事がキャンセルに。3月中に予定していたレッスン料の半額を支払ってくれたスポーツクラブもあったが、4月以降は、それもなくなった。

 一般労働者と違いフリーランスには失業手当、休業補償もない。月の収入は自宅で催す教室のレッスン料などを合わせて約20万~25万円だったが、5月の収入は10分の1に落ち込む見込みだという。「本来安定していたはずの収入がなくなったので、まさかと思った」。女性は表情を曇らせた。

 契約するスポーツクラブの中には、再開のめどを知らせるところもあるが、ほとんどが未定だという。これまで持っていたレッスン数が減ることが既に決まっているところもある。

 経営環境の厳しさが、立場の弱いインストラクターを直撃する。「契約先から待機してと言われるかもしれない」。不安が募り、安定を求めて他業種への転職も頭をよぎる。現在はオンラインに切り替え、自宅で週2回、レッスンを行う。だがその収入だけで、生活するのは厳しい。

 「今まで勉強してスキルを積んできた。フリーランスは特殊なスキルを持っている人たちが頑張って自分で生きている。こんなにも不安定なものなのかと思い知らされた」