台湾の総統選挙の熱狂が冷めやらない1月中旬、私は近所の医院を受診した際に、初めて原因不明のウイルス性肺炎が中国大陸で流行し始めたことを知った。そのころ、台湾は既に武漢からの直行便に対して検疫を開始しており、1月下旬の武漢の都市封鎖より前に、司令塔となる中央感染症指揮センターが設置されている。
その後、旧正月(春節)の連休に入るが、各学校の始業が延期、2月上旬には中国本土からの入境や国際クルーズ船の寄港が禁止され、政府によるマスクの配給体制も整備されている。日本が海外からの入国を制限するなどの対策を本格化させ始めたのは、それから約1カ月後のことである。
私も当初、このコロナウイルスがこれほどまでインパクトがあるものと理解していたわけではない。周りが急にマスクを着用し始め、熱心に消毒する様子を不思議に感じたし、過熱するマスコミ報道も疑心暗鬼になっている部分があるのだろうと理解していた。2月上旬に沖縄に出張した際には、日本国内でもダイヤモンドプリンセス号の問題はあったものの、マスク着用率も低く、警戒感の違いに戸惑った。
私が事の重大さにようやく気が付いたのは、日本への渡航警戒が高まったことなどを受け、現地での情報収集を増やし始めてからである。この感染症に対する日本と台湾の見方の違いに注目し、その背景が分かってくると、早い段階で次々に対応策を打ち出す台湾政府の姿勢や、警戒をいち早く高めた台湾社会が理解できるようになった。
台湾は、さまざまな国際環境の中、独自の情報収集と危機管理を磨き、SARSの経験も確実に今回の迅速な対応につなげた。また、感染地からの情報発信を様々な角度から検証するような報道も多く、社会全体の危機意識も早い段階から高かったと思う。
コロナウイルスの影響は社会のあらゆる分野におよび、その戦いはまだ始まったばかりである。今後は医療崩壊を避けつつ、「3密」回避など新たな生活様式のもと、日常生活や経済活動を再開させていく必要があると思う。
台湾と日本は社会システムが異なる部分はあるが、多くの基本的な価値観を共有し、学べることは多いだろう。今回紹介した台湾の取り組みが参考になれば幸いである。
(仲本正尚、県産業振興公社台北事務所)