菊農家、15%が廃棄も コロナで葬儀の減、シーミーの自粛…


社会
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大雨による冠水で畑が被害にあったことを話す宮平聰さん=南城市内

 【南部】近年の単価低迷で厳しい状況にあった小菊農家が、新型コロナウイルスの影響でさらなる大打撃を受けている。緊急事態宣言が発令され、「3密」を避けるため、全国的に菊を必要とする葬儀が激減。沖縄県内ではシーミーの自粛も響いた。本島南部で小菊農家を営む男性は、菊が売れずに15%廃棄となった。収入が減り、死活問題に直面している。

 男性によると、東日本大震災の影響もあり10年ほど前から菊の単価が下落傾向だという。数十年ほど前は1本60円程度だったが、いまでは30円台となり、20円台に落ち込むことさえある。先の見えない不安に「気持ちがどこまで持つか…」。男性は10年近く乗る中古の愛用トラックにもたれ掛かり、うなだれた。

利益が年50万円

 収入は減るが支出は増え続ける一方だ。農薬や県外出荷のための航空運賃は年々上がる。経費がかさみ生活は圧迫され続ける。

 さらに「ここ2、3年は台風でもやられた」。畑を囲うネットなどの設備が被害を受けた。修繕費で支出は止まらない。同居する母親の年金でどうにか生活している状態という。

 コロナの影響で、男性の生産した小菊の約15%が廃棄となった。40%廃棄した同業者もいた。年商から経費を差し引いたら手元には50万円しか残らなかった。男性は「何も考えられない。ここ2、3年で頭がパンクしている」と力なく語る。数年後に菊農家をやめることさえ考え始めている。

給食野菜出荷できず

 小菊やトルコキキョウ、オクラ、ピーマンなどさまざまな花卉(かき)や野菜が農地を彩る。南城市玉城で息子らと一緒に農業を営む宮平聰さん(65)もコロナ禍によって打撃を受けている。小菊の県外への出荷は3、4月は停止に陥り、学校の休校に伴い給食に使う野菜が出荷されず打撃を受けた。「50年近く農業をしているが、このような損害は初めて」と肩をすくめる。

 宮平さんらはさらに5月2日と6日の記録的な大雨によって畑は冠水し、一部の作物と花卉にダメージを受けた。大雨も多く、作物の時期も早まっており地球環境の異変を肌身で感じている。

 人の食を支える大事な農業だからこそ「私たちのような農家が安心して農業できる環境にしないと、このままでは農業をする人は減り続けていく」と危機感を強めている。
 (照屋大哲、金城実倫)