実力に応じて厳しい格付けがあるプロ競輪の世界で、デビュー10カ月の伊藤颯馬(21)=北中城高出=が一足飛びに階級を駆け上がっている。今春には破竹の9連勝を挙げ、特別ルールにより今月17日付けで上級クラスのS級に昇級した。「もともとスプリント力はある方。レースを重ねるごとに力を出せるようになってきた」。隆々と発達した太ももに、努力の証しが垣間見える。
■物おじしない性格
競輪は大きく分けて上からS級とA級があり、それぞれ実績に応じて3つの班に区分けされる。S級はS、1、2の各班、A級は1、2、3班に分かれ、伊藤が所属するのは上から3番目のS級2班。レース順位ごとに加算される得点を基に、通常は半年ごとに班の入れ替えがあるが、伊藤は今月16日に北九州市であったレースで予選、準決勝、決勝を全て1着でゴールする完全優勝を3レース連続で達成。上から5番目のA級2班から2階級上のS級2班へ即座に移ることのできる「特別昇級」が適用された。
中学時代に競技を始め、非凡なスプリント力を武器に高校では2年連続で国体ケイリン6位。2018年に日本競輪学校に入学し、19年3月に卒業した。同7月のデビュー戦決勝は「緊張があった」とプロ独特の緊張感にのまれ不本意な3着。しかし高校時代から約10キロ体重を増やすなど、筋力の増強で加速力を上げ、一気に頭角を表した。直近4カ月の成績は出走25回中1着が18回で、勝率は7割近くに達する。
現在、沖縄地区の登録選手は14人いるが、S級に所属するのは伊藤と屋良朝春(36)=北中城高―日大出=のみ。伊藤の師匠であるプロ競輪選手の仲松勝太(42)は「物おじしない性格でマークされても焦らず戦える。高校時代からトップスピードは速かったけど競輪学校でまたワンランク上がった」と強さの秘けつを分析する。沖縄、鹿児島、宮崎の3県でつくる鹿児島支部で特別昇級は約15年ぶりといい「デビュー1年もたってない。これからが楽しみ」と期待した。
■柔軟対応で高みへ
6月からはS級2班でのレースが幕を開ける。「A級とS級ではスピードが全く違う。前に出られるだけのダッシュ力がほしい」と、太もも回りの筋力強化などでさらなる爆発力の向上を誓う。自身を「鈍感」と評し、技術的な部分を突き詰めるよりも感覚で走るタイプというが、レース展開次第で「逃げ」と「まくり」のいずれも使いこなし、駆け引きの成長も感じている。熟練の選手たちがしのぎを削るS級でも「勝負しながら対応していきたい」と臨機応変で、柔軟にレース展開に適応していく考えだ。
もう1階級上のS級1班に向けても「2年くらいかけて上がりたい」と見据える。プロ約2200人のうち、S級1班は約210人、さらにピラミッドの頂点に位置するS級S班は9人のみという狭き門だ。昇級していけば年6レースあるG1や優勝賞金1億円の「KEIRINグランプリ」への出場権を得られる可能性もある。
「あまり深く考え過ぎない」というマイペースな性格の21歳。語り口も淡々としているが、自転車では「めちゃくちゃ速くなりたい」と強い闘争心を内に秘める。最速70キロ近くで風を切る競輪界のホープが、さらなる高みへ全力でペダルを踏む。(長嶺真輝)