<新沖縄発展戦略を読みとく>国際拠点「エアポートシティ」、名護まで鉄軌道「どの事業より効果」


社会
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エアポートシティ構想の中核になる那覇空港

 2022年度以降の新たな沖縄振興計画策定に向け、県の富川盛武副知事率いる有識者チームが4月21日、玉城デニー知事に「新沖縄発展戦略」を提言した。新振計の全体構想を示したもので、入域観光客数の「量」を優先した従来の観光政策から転換し、「質」を重視した持続可能な観光の推進を求めるなど、今後の沖縄を大きく変える提言が多岐にわたって盛り込まれている。現行の第5次沖縄振興計画(沖縄21世紀ビジョン)は21年度末に期限切れを迎えるため、県は今年3月末に作成した現行計画の総点検報告書と新沖縄発展戦略を踏まえ、年内に新振計の骨子案を発表する予定だ。戦略の内容を紹介する。

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 新沖縄発展戦略では新たな施策展開の枠組みとして(1)アジアのダイナミズムを取り込む臨空・臨港都市の形成と県土構造の再編(2)日本経済再生のフロントランナー(3)ソフトパワーを生かした持続可能な発展(4)誰一人取り残すことのない社会の構築と未来を開く人材育成―の四つを示した。

 四つの枠組みには、それぞれ世界水準の拠点空港化や鉄軌道の導入、スタートアップの促進、首里城の復元・復興、離島・過疎地の振興など21項目が重要事項として位置付けられ、具体的な課題や取り組みを提言している。

 アジアの勢いに乗る

 人口減少に直面した日本経済は国内市場の依存から脱却して、アジアをはじめとした海外市場に展開せざるを得ない。日本の中でも地理や歴史、文化で優位性がある沖縄は「アジアの橋頭堡(きょうとうほ)」として臨空・臨港型産業を展開し、日本経済の成長に貢献できる。

 新沖縄発展戦略の施策展開の一つ「アジアのダイナミズムを取り込む臨空・臨港都市の形成と県土構造の再編」が描く沖縄の将来像だ。

 那覇空港は国内屈指の利用客数と貨物量を取り扱い、東アジアと東南アジアの主要都市を4時間圏内で結ぶ。那覇市内のビジネス街にも近いため、空港周辺に国際的な企業や人材が集まる「エアポートシティ」の形成を提言する。国際線ターミナルビルと沖縄都市モノレールの駅が遠いとして、「新那覇空港国際線駅(仮称)」の新設も提唱している。

 那覇軍港の跡地を含めてホテルや商業地、航空機整備産業、先端医療などの臨空・臨港型産業を集積し、国際物流拠点の形成を図る。ITを活用した港湾施設(スマートポート)の整備・拡張も必要とする。

 慢性化している渋滞対策のため、過度の自動車保有状況からの転換を促す。自動運転やITを活用し効率的な移動を可能とする次世代交通体系「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)」、ドローンの活用などが進んだまちづくり「沖縄型スマートシティー」も有効だ。モノレールの3両化の実現や高速化も求めた。

 有識者が最も重視するのが那覇市と名護市を1時間で結ぶ鉄軌道の導入だ。明治大の池宮城秀正名誉教授は「波及効果はどの公共事業よりもはるかに大きい。県の土地利用形態、人口動態、県民の利便性、都市形態、産業の配置、特に観光に劇的な効果をもたらす」と強調した。

 新振計の必要性訴え

 沖縄の日本復帰後50年近くにわたる政府による沖縄振興は戦後27年間、米国に支配されたことや離島の点在、米軍基地の集中など沖縄の特殊な諸事情に鑑み、沖縄振興特別措置法に基づく振計を根拠に実施されてきた。

 社会資本の本土との格差は是正されてきたが、米軍基地に由来する事件事故は引き続き発生する特殊事情は解消されていない。県は、沖縄の発展可能性が高まり「日本経済再生に寄与する」として新振計策定の必要性を訴えている。

 富川副知事は4月21日の会見で、沖振法に代わる新たな法律を制定するのは「ほぼ不可能」なため、同法の改定を目指すとした。「なぜ50年やってまださらに10年の延長が必要か論拠を示さないといけない。新沖縄発展戦略は次の振計に向けて非常に重要だ」と述べた。

 有識者チームは、富川副知事を統括として、池宮城名誉教授と沖縄国際大の前村昌健教授(地方財政)、ニューパブリック・ワークス代表理事の上妻毅氏、県土木建築部の下地正之参事監、県商工労働部の伊集直哉産業雇用統括監が務めた。
 (梅田正覚)