<新型コロナOISTによる洞察>4 ワクチン開発、変異の少なさは朗報 有効性試験の体制課題


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 ウイルスが人に感染すると、免疫細胞である白血球が防御を開始します。白血球にはB細胞やT細胞などがあり、感染後2週間ほどすると、B細胞は抗体を産生し、ウイルスに結合して不活性化させます。一方、T細胞はキラーT細胞に成長してウイルスに感染した細胞を検知し破壊します。これは、同じウイルスによる反復感染から人を保護するために進化したシステムです。再感染時に、感染が確立される前に白血球がウイルスを排除してくれるのです。

 ワクチンは、感染が起こっていると白血球に信じ込ませて、防御反応を引き起こすことで機能します。初期のワクチン接種は1796年に英国人医師エドワード・ジェンナーによって行われました。ジェンナー医師は、感染力が強く死亡率が高い天然痘の予防方法を模索する中で、天然痘の近縁で、牛を宿主とし重症化することはない牛痘を子どもに接種しました。その後、その子どもに天然痘を接種しても、かかることはありませんでした。こうして、天然痘は牛痘に類似したワクチンを用いて1977年には世界から根絶されたのです。

 ウイルスに有効なワクチンは数多くあります。ポリオ、はしか、おたふく風邪、風疹などの一部のワクチンは、小児期の予防接種後も長期的に防御効果が続きます。こうしたワクチンはウイルス株の毒性を弱めて生成されています。

 一方、インフルエンザは毎冬流行するウイルス株が変わるため、毎年新たなワクチンの接種が必要です。エイズの原因となるヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、一人の患者の体内でもウイルス株の変異速度が速いため、ワクチン開発は困難を極めていますが、幸いにも、ウイルスの複製を抑制する薬剤を複数併用することで、疾患を抑制することができています。

 新型コロナウイルス感染症(COVID19)によるパンデミック(世界的大流行)が起こる前の生活を取り戻すために、今、ワクチン開発に大きなプレッシャーがかかっています。この世界的問題の解決策に向けて各国が協力して取り組むべきでしょう。天然痘の撲滅成功が示したように、ワクチンは通常、薬よりも安価で信頼性が高く、投与が容易であり、世界中で展開することができます。

 犬コロナウイルス感染症には市販のワクチンが存在しますし、COVID19のワクチン開発がうまくいく可能性は十分にあります。しかし、風邪を引き起こすヒトコロナウイルスは重症化しないため、ワクチンの開発には至っていません。

 別のヒトコロナウイルスである重症急性呼吸器症候群(SARS)はワクチンが必要になる前に終息しました。COVID19は非常に多くの無症状病原体保有者が感染を広めているため、SARSのように終息していません。

 朗報は、COVID19は感染拡大を続ける中でも大きく変異していないと考えられることです。世界中で100以上の研究グループが、さまざまなアプローチでCOVID19のワクチン開発に取り組んでいます。このうち一つでも成功することを願っています。英オックスフォード大学で開発中のワクチンは、すでにサルに対する防御効果が確認されており、現在人間に対する臨床試験が行われています。

 ワクチン開発の最終試験は、COVID19の脅威にさらされた人々に対して防御効果があるかを確認することです。しかし、最初の有効性試験はいつどこで行うのでしょうか。これはCOVID19の流行状況に左右されるでしょう。防御効果があるとなれば、効果はどれだけの期間続くのでしょうか。ワクチン開発への道のりにはまだいくつかの課題が残っています。

(メアリー・コリンズ、OISTプロボスト)

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メアリー・コリンズ

 Mary Collins 沖縄科学技術大学院大学(OIST)プロボスト。英国出身。ケンブリッジ大学で生物化学博士号。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの感染免疫学部門を率いた後、同大学の生命科学研究科長等を経て2016年にOIST着任、18年から現職。