『沖縄口朗読用読本 昔物語』 継承に役立つテキスト


社会
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『沖縄口朗読用読本 昔物語』國吉眞正著 琉球新報社・2200円

 最近、かつて収集された琉球の民話について、ネーティブの言語話者が「再話」を行うといった試みが見られる。私が関わる沖縄伝承話資料センターというNPO法人でも、明治・大正生まれの話者たちが語った録音の「テープ起こし」をするのみならず、現在も「しまくとぅば」を話せる人が、民話を再構成して「方言再話」を行うといったことがある。日常から失われつつある「しまくとぅば」のこうした言語表現を、これから生きる世代にどのように伝えればよいのだろうか。

 本書も、母語を共通語で育てられた若い世代へ向けて、何とか適切な形で「沖縄口(うちなーぐち)」を継承していってほしいという強い思いで編まれている。琉球各地に伝わる50の民話が、著者(1937年生)による沖縄語(八重瀬町上田原の言葉)で表現され、これから沖縄語を学ぼうとする人にとって格好の長文テキストになっている。

 横書き見開きの2ページのうち、左側には沖縄語(沖縄文字で表記)の民話テキストを載せ、右側にはその単語の解説が詳しく施されている。強いて言えば単語の解説は、文法的な説明も考慮すべきだが、沖縄語のニュアンスが分かる人にとっては必要十分なものだろう(後半には全訳も付いている)。民話テキストは約1ページの一定分量にまとめられていて、定量の沖縄語を「読む」ことで沖縄語を保持する鍛錬にもなるだろう。著者はまさしく本書を「散文」として音読する「読みもの」と考えており、このテキストを元にしたさまざまな沖縄語の学習プリントもできるはずだ。

 50の民話のうち、前半の25話は筆者によるCD録音付きで、音声からも学習できるようになっている。宮古や八重山の民話まで「沖縄語」で表現されているところは気にかかるが、著者の母語による言語表現と考えれば致し方のないところだろうか。沖縄語に即した「沖縄文字」についても、私は汎用(はんよう)性の観点から反対の立場だが、そのことを差し引いても、十分に活用できる沖縄語のテキストと呼べるのではないだろうか。

(西岡敏・沖縄国際大学教授)

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 くによし・しんしょう 1937年フィリピン生まれ。沖縄言語教育研究所主宰。日本アイ・ビー・エム勤務を経て、旧通産省特許庁外郭団体の工業所有権協力センターへ。2003年定年退職。沖縄語の保存と次世代への継承方法の研究、実践を行う。

 

國吉眞正 著
B5判 159頁

¥2,000(税抜き)