信頼醸成の外交を戦略的に 沖縄に向き合い発想の拡幅を 宮城大蔵上智大教授<揺らぐ「辺野古唯一」識者に聞く>②


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―地上イージスの配備計画断念をどう受け止めたか。

 「一言で表すと、政治が決断すればできるということだ。(配備先の)地元の懸念はもちろん、北朝鮮のミサイル能力向上に対応できるのかも不確かで、巨額の費用など問題点は多かった。米側の今後の反応が気になるところだが、現段階では世論の反応を含め、河野太郎防衛相の株が上がった感じもある。ポスト安倍を視野に入れる他の有力者にとっても気になる動きだろう」

 「一方で疑問なのは、敵基地攻撃能力の検討にすぐ話が向かったことだ。現政権はピンチになると北朝鮮の脅威をあおり、政権浮揚につなげてきた面がある。イージス艦を増やすことで安全保障の穴を埋めると言いつつ、敵基地攻撃能力の保有論まで出てきたのは、対外的な危機を演出して政権の求心力を回復しようとする思惑があるのだろう」

―外交の現状をどうみる。

 「北東アジア外交は場当たり的になっている。対北朝鮮では『最大限の圧力』と『無条件の対話』という両極を行ったり来たりだ。国内向けの政権浮揚とトランプ米政権に歩調を合わせることが目的になっていて、実質的な外交がない。安全保障にしても米側の反応を探ることが発想の主体にあり、日本としてどうしたいという意思がない。それは辺野古も同じだろう」

―辺野古の工事もやめるべきだとの声が改めて強まっている。

 「軟弱地盤などで工事はまさに泥沼化しかねず、辺野古はやめたほうがいいという声は自民党内でもどんどん強くなるだろう。一方、地上イージスの場合はイージス艦を増やすという『シンプルな解』があるが、辺野古の場合は止めた後にどうするのかという問題が出てくる。新基地のめどが立たない以上、普天間飛行場の早急な運用停止を可能にする具体的、技術的な検討を進めなくてはならない。その知恵を引き出すのが政治の仕事だ」

―政治や外交に求められることは何か。

 「辺野古を唯一の解決策というのは、日本外交の発想の幅が狭くなっている象徴だ。閉塞(へいそく)感といってもよい。沖縄を考えることが、日本外交の幅を広げることにつながる。政策や議論の幅の広さが民主主義の強みであり、それを取り戻す必要がある」

 「慰霊の日に国連事務次長の中満泉さんが寄せた軍縮のメッセージは意義深いものだった。北東アジアの現状は日本を含め、軍拡競争に陥りかねない面がある。行き着く先に何が起こるのか。沖縄ほど戦争の悲劇を知り抜いている場所はない。抑止力の強化は重要だが、肝心の外交がおろそかになっている。『力の対決』では今後の日本は不利になる。信頼醸成や緊張緩和などに戦略として取り組む発想が必要だろう」

(聞き手 當山幸都)

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 みやぎ・たいぞう 1968年東京都生まれ。NHK記者として沖縄勤務を経て、一橋大学大学院法学研究科博士課程修了。現在、上智大総合グローバル学部教授(国際政治史、日本外交)。著書に「戦後アジア秩序の模索と日本」「普天間・辺野古 歪められた二〇年」(共著)など。県が有識者の意見を政策に反映させるため設置した「米軍基地問題に関する万国津梁(しんりょう)会議」の委員を務める。