【識者評論】沖縄の歴史“粗末”に扱い 総理府史の誤り、直ちに回収が当然


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豊下 楢彦(元関西学院大学教授)

 沖縄の振興開発を担ってきた総理府の「正史」に明記されていた「戦後の沖縄が国連の信託統治下にあった」との史実に反する記述を巡る問題は、当局が沖縄の歴史をいかに“粗末”に扱ってきたかを如実に示していると言えよう。

 例えば、次のような場合を考えてみるとどうであろうか。つまり、仮に戦後史に関する公的な刊行物において、日本が「独立」を果たしてからも米占領軍がそのまま駐留を続けた事実を踏まえ、「日本は講和条約の締結以降も米国の占領管理体制の下に置かれた」と記されていたならば、「重版予定がなく修正が難しい」として放置するであろうか。否、直ちに回収をして担当者は何らかの処分を受けるであろう。放置すること自体が、沖縄の国際法上の地位への無頓着を象徴している。他方、今回の問題の関係者からは、「沖縄は信託統治にならなかったから本土に復帰できたのだ」との認識が示されているが、この認識は信託統治制度の本質が全く理解されていないことを示している。

 国連の信託統治理事会は信託統治地域を管轄下において人権と民生の発展を図り、やがて当該地域の人民が「自決の権利」を行使することをバックアップする任務を担う。従って、仮に沖縄が信託統治下にあれば、しかるべきときに沖縄の人民は、独立するか日本本土に復帰するか、自らの意思で選択することができるのである。無憲法、無国籍の米軍支配に置かれた沖縄が歩んだ道との違いは歴然としている。

 いずれにせよ、「総理府史」の記述を巡る問題は、沖縄の歴史における別の可能性を考える機会を提供したのであって、これはまた今日につながる問題でもあろう。
 (豊下楢彦、元関西学院大学教授 国際政治論)