【識者評論】埋立法を空文化、行政の信頼も喪失 白藤博行専修大教授


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白藤博行専修大教授

 名護市辺野古の新基地建設に伴うサンゴ移植について、農水相の是正の指示を適法とした国地方係争処理委員会の判断には大きな問題がある。

 県はサンゴ類の特別採捕許可について、県漁業調整規則に基づき、その移植の必要性および妥当性について慎重に審査を続けており、この知事の許可処分には大きな裁量が認められる。一方、農水相は水産資源保護を目的とする水産資源保護法に違反する「裁量権の範囲の逸脱・濫用の違法がある」として是正の指示を行った。そもそも農水相が本件許可処分に関与できるのは、その所管する水産資源保護法違反に限られる。この点、たとえ県の本件許可処分に県漁業調整規則に違反する違法があったとしても、直ちに水産資源保護法違反になるとは限らない。

 農水相は、県漁業調整規則に違反する違法が水産資源保護法に違反する違法となることを立証しなければいけない。農水相は、これをあたかも当然として、係争委の審査も不十分なままである。

 また、農水相は、沖縄防衛局から本件許可処分に係る県の対応について連絡を受けたというが、そもそも本件埋め立て承認は「私人」としての沖縄防衛局が行っているものであり、いちいち私人の連絡に応えて、国が県に関与すること自体極めて異例である。農水相の関与は、いかにも沖縄防衛局の埋立工事の後押しのためのものにみえるのは、私だけではあるまい。

 沖縄防衛局は現在、仲井真弘多元知事から受けた承認の際の設計概要の変更申請を行っているところで、これは埋め立て工事が承認のままでは続行できないことを“自白”したものだ。

 それにもかかわらず変更申請箇所以外の区域については埋め立て承認が「生きている」として工事を容認する係争委の判断は、常識的ではない。埋め立て承認は、工事の区域ごとに分けて行われているわけではなく、あくまでも埋め立て予定区域一体にかかる一個の承認であり、一部の区域の変更であれ全体に大きな影響を与えるものであるからだ。「一度承認を得ているのだから工事をやれるところからやる」という国の姿勢は開き直りだ。埋め立て承認の一体性・一個性を無視して工事を強行する国の姿勢は、水産資源保護行政への信頼を失わせるばかりでなく、公有水面埋立法の埋め立て承認制度そのものの空文化を招く。
 (行政法)