国際社会も環境への影響懸念 吉川秀樹・ジュゴン保護キャンペーンセンター国際担当<揺らぐ「辺野古唯一」識者に聞く>③


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―米国防権限法案の審議過程で名護市辺野古新基地建設について小委員会で懸念が示された。どう受け止めたか。

 「即応小委員会から具体的な形で新基地建設への懸念が示されたことは意義がある。軟弱地盤や活断層の問題のみならず、ジュゴンやサンゴの保全にも言及した。米下院の誰かが辺野古・大浦湾に豊かな自然があることを認識したということだ。沖縄から発信してきた情報が届いている。次の段階で文言が削除されたのは残念だが、辺野古新基地の問題について米連邦議会で理解が進んでいることが分かる。特に環境保全に関して県民から意見を聞くよう明文化された点は重要だ。小委員会は住民の声が全く反映されずに工事が進んでいると懸念したのだろう」

―どう生かせるか。

 「新基地建設の問題を訴え続ける材料になる。小委員会の記載により説得力が増した。米議会の法案決定には米市民が関われる仕組みになっており、今回の記載も米市民からの影響が大きいと考える。米市民との連帯の成果として位置付け、連邦議会への今後の働き掛けにつなげていける」

―米国や国際社会に直接訴える狙い・利点は何か。

 「沖縄の基地問題を環境の視点から捉え直し、国際化することを意識してきた。英語の論文で沖縄の基地問題について発信し、米国や国際的な団体・機関と直接英語で交渉している」

 「当事者の米国に沖縄から直接訴えるのは当然で、それができると示すことが大切だ。故・翁長雄志前知事の『うちなーんちゅ、うしぇーてぇーないびらんどー(沖縄人をないがしろにしてはいけませんよ)』だ。国際社会に訴える狙いはその理解と協力を得ることはもちろんだが、沖縄の異常な状況を沖縄側が再認識することにもつながる」

 「国際社会や米国の方が、専門家が専門家の立場で物を言える。日本と異なり『専門知識は政治的判断と別だ』という考え方が浸透しているため専門家が忖度(そんたく)しない」

―国際社会の理解は進んだか。

 「世界最大の自然保護ネットワーク・国際自然保護連合(IUCN)が南西諸島のジュゴンを最も絶滅の危機にひんしている『近絶滅種』に位置付けた。新基地建設の懸念も明言した。『基地はジュゴンに影響を与えない』とした日本の環境アセスを否定している。国際機関や米国と関わってきた方向性は間違っていない。日米両政府にとってプレッシャーになる。沖縄防衛局が設置した環境監視等委員会の委員たちも専門家として最低限の指摘をせざるを得ない。そうしなければ専門家としての評価に響く」

―政府は辺野古唯一という考え方を変えていない。

 「唯一の解決策どころか、最も造ってはいけない場所だ。あれだけ素晴らしい自然が残っている。世界遺産候補地のすぐ近くに基地を建設していいのか。不適切な場所を選んだために完成が見通せない。軟弱地盤や活断層、環境、基地集中、人権侵害、その不合理さは明らかになっている。それを米国と国際社会に伝えていくことが大切だ」

 (聞き手 明真南斗)

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 よしかわ・ひでき 1964年名護市出身。文化・応用人類学者。米ポートランド州立大学学士課程、オレゴン州立大学修士課程を修了。カナダのサイモンフレイザー大学博士課程単位取得退学。現在、名桜大と琉球大、県立芸術大で非常勤講師を務める。ジュゴン保護キャンペーンセンター国際担当、米ジュゴン訴訟サポーター。オール沖縄会議や島ぐるみ会議の訪米行動に関わった。