陸上イージスと同じ構造 客観性欠く中国脅威論 藻谷浩介 日本総研主席研究員<揺らぐ「辺野古唯一」識者に聞く>④


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
(家の光協会撮影)

 ―陸上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画が断念された。

 「そもそもなぜ配備地が山口県の萩市と秋田市だったのか。それぞれ北朝鮮からグアムとハワイに向かう線の真下だ。首都圏防衛なら能登半島となるはずだが。グアムやハワイを攻撃するなら、まず迎撃ミサイル基地をつぶしてからだろう。そうすると周辺の住民が巻き込まれる。どうせ攻撃はないというのなら、基地自体が要らない。住民を巻き込んだら、その時点で“国防”は失敗だ。住民が盾となった沖縄戦の教訓が全く生かされていない」

 ―陸上イージスは技術的課題とコスト、工期が理由で合理的でないと断念された。それなら辺野古新基地建設も見直しをと求める声が多い。

 「陸上イージス断念で、さすがに現実を侮ってリスクを取ることに歯止めが効くこともあるのだと感じた。やめられない日本国で、政治家主導でやめさせられるばかりか、米国という難しい相手でも要求が通ることを示した。ならば辺野古も同じく見直すべきだ。津波リスクのある沖縄本島東海岸には、旧日本軍や米軍ですら滑走路は建設しなかった。リスク把握の怠慢と官僚的無責任という構造は、陸上イージスと同じだ」

 ―辺野古移設に反対だ。

 「沖縄トラフの正面に軍用滑走路というのもナンセンスだが、それ以前に地域経済に打撃が出る。基地の目の前は世界的なリゾートだ。軍用機が飛び交えば、平和的にキャッシュを稼ぎ、ばく大な雇用を生み、地元食材を消費する観光業に打撃となる」

 「別の観点でジュゴンもある。ただの動物ではなくて沖縄では聖なる動物だ。中国からパンダがいなくなるような大問題だ。世界的な潮流として、ジュゴンのいる所に軍事基地を造ることに反対の動きが出るべきだ。東京が地方を軽視するように、沖縄の中でやんばるなら仕方ないという雰囲気を感じることがある。そうだと良くない。普天間をどうするかと言われれば、山口の岩国基地へ移転すべきと思うが、それが進まなくても辺野古は駄目だろう」

 ―中国脅威論が盛んだ。防衛白書でも中国の軍事力への「懸念」が強調されている。

 「中国共産党は、正統性を示すために過去の王朝の最大版図を再現したい。つまり狙いは太平洋への出口の台湾だが、現実には難しい。日本の領土なのに米軍が沖縄返還時に帰属を明示しなかった尖閣での示威は、せめてもの陽動だ。沖縄はベトナムや韓国と同じく版図外の旧朝貢国で、しかも米軍がいる。台湾より先には狙われないし、狙う力もない。仮に海兵隊が本土などに移転しても、嘉手納基地などがある限りこの構図に変化はない」

 「脅威というとかつてはソ連だが、崩壊後も残るロシアの核兵器には誰も騒がない。ソ連脅威論も今の油断も行き過ぎ。中国に関しても、冷静客観的な考察と判断がない」

 「琉球がパワーバランスの中で巧みに生きてきた経緯を学ばず、歴史と地理に無知な本土のネット右翼と同レベルの言説を展開している沖縄の人がいるのは残念だ」

 「中国では今後半世紀の間に現役世代が3割減り、高齢者は3倍に増える。国力や軍事力が米国と逆転するということは150%あり得ない。もう既に足腰は崩れ始めている。人権無視の大国が隣にいるというような状況はいずれ変わっていく」

 (聞き手 滝本匠)

………………………………………………………………

 もたに・こうすけ 1964年、山口県生まれ。東京大、米コロンビア大経営大学院卒。日本開発銀行入行、政府各種審議会委員なども務めた。現在日本総合研究所主席研究員。