32軍壕、12年度調査で専門家「公開必要」の指摘 県は「公開不可能」と調査せず


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第5坑口から直線に伸びる坑道=6月30日、那覇市首里(代表撮影)

 2012年度に行われた第32軍司令部壕の安全性や保存などの方法を調査・検討した県の事業で、土木工学の専門家から司令官室があった第3坑道や、そこに続く第2坑道は、保全と公開に向けた何らかの調査が必要との結果が示されていたことが2日までに明らかになった。しかし、事業報告書では「全区間で現状のままの一般公開は不可能」と結論付けられ、県はその後、詳細な調査を実施していない。首里城火災をきっかけに32軍壕の保存公開を求める機運が高まる中、公開は困難という結論ありきで報告書をまとめ、その後もその方針を維持した県の根拠や姿勢が問われている。

 事業は県が日本工営(東京都)に委託した。業務の委託契約期間は2012年7月から13年2月までで、12年11月と13年1月に専門家の委員へ意見聴取を行った。県と業者が事前協議して、琉球大学や東海大学、鹿児島大学など6人の土木工学の専門家を委員に選定した。12年11月には現地視察を実施し、専門家らが第2坑道と第3坑道、第5坑道に入り内部を調査した。

坑道内に残るトロッコの枕木=6月30日、那覇市首里(代表撮影)

 調査や意見を踏まえて15年2月にまとまった事業報告書では、「全区間において現状のままでの一般公開は不可能」「緊急的に埋め戻しなどによる対策が必要な状態ではない」などと結論付けられ、それが県の方針として維持されている。

 一方で報告書によると、12年11月の第1回会合で専門家は「壕の保全を行う必要がある」と共通認識を持った。「第2、3坑道は崩落の危険性・緊急性はないが、保全のために何らかの調査が必要だ」、第5坑道は「調査は必要ないが吹きつけなどの対策が必要だ」ということを確認した。

坑内の壁に残るツルハシの掘削痕=6月30日、那覇市首里(代表撮影)

 第1回会合での専門家からの意見として「第2、第3坑道は結構見応えがあった。残すか残さないかは県の意向だが、カメラでも設置して中を公開するのもいいかと思うし、少しは入れると思う」といった前向きな意見もあった。「われわれは歴史家ではないので保存すべきかは歴史家に委ねるが、保存という結論が出たときに今の状況なら保全にならない。力学的な背景、計測を充実したほうがよい」など、保存へ向けた調査の必要性も出された。

 壕の強度については「砂岩や泥岩の部分でもいまだに健全なところもある。戦後65年がたってもこういう状況なので、十分、今後も耐えられるだろう。場合によっては、部分的に見学者を入れても大丈夫な状況になるのでは」といった意見もあった。

32軍壕内部映像公開

坑内に残るシャベル=6月30日、那覇市首里(代表撮影)

 首里城地下にある日本軍第32軍司令部壕の最新映像が公開された。映像の場所は第5坑道。内部で鉄かぶとなど日本軍の遺留品や、水が流れている様子が確認された。県は32軍壕公開に関し、2020年度中に専門家らでつくる新たな検討委員会を設置する方針を示している。