県で新型コロナウイルスの感染者が急増している。県民が強い危機感を抱いているのに対して、中央政府は冷ややかだ。
〈菅義偉官房長官は3日の記者会見で、新型コロナウイルスで陽性となった無症状者や軽症者用のホテル確保を巡り「沖縄県は宿泊施設の確保が十分でない。政府から沖縄県に何回となく促している」と明らかにした。/確保に必要な費用は国が全額提供するとした上で「それ以上のことについては地元の判断だ」と強調した〉(3日、本紙電子版)。
菅氏は、中央政府が態勢を整えているにもかかわらず、県の怠慢で新型コロナウイルス感染者の軽症者を受け入れる宿泊施設の確保ができていないという認識を露骨に示している。辺野古新基地建設に反対し、中央政府に隷属しない沖縄県が、県民の生命と身体の安全を保障できていないという印象操作を菅氏はしようとしているとしか思えない。侮辱的だ。東京に在住する沖縄人の1人として、筆者は菅氏の発言を極めて不快に思う。
同日、玉城デニー知事は、菅氏の発言に対して反論した。〈(玉城知事は)「私どもと長官の発言とそごは生じていない」と述べ、国の患者推計に基づいて計画的に宿泊療養施設の確保に取り組んできたと強調した。/玉城知事によると、国からは7月末までに感染者の拡大に伴う医療提供体制の整備を行うよう通知を受けたという。県は、国の患者推計に基づき、最大療養者数を425人と想定し、医療機関の200床と軽症者向け宿泊療養施設225室以上の確保に向けて取り組んできたとした。一方で7月に入って患者が急増したため、8月上旬からの供用開始予定を7月30日から前倒しで始めたと説明した〉(3日、本紙電子版)。
感染症対策が喫緊の課題であるときに、県と中央政府が諍(いさか)いを起こすことは好ましくない。ただし、今回、攻撃を仕掛けてきたのは中央政府だ。玉城知事は当然の反撃をしているにすぎない。
県の感染症対策の実務責任者にとっても菅氏の発言は想定外だった。〈菅氏の発言について国と調整し宿泊施設の確保に取り組んできた県の保健医療部は「意外」(糸数公保健衛生統括監)と受け止めた。大城玲子部長は「計画通りに進めてきた」と胸を張った。ただ病床や宿泊施設の確保が感染拡大の速さに追い付いていない実情がある。その結果、患者の自宅療養を選択肢に入れざるを得なくなった。(中略)糸数統括監は「7月に入り(多数の)患者が発生し、時間が間に合わないところはあった」と認めつつ「国が示した数字に基づいて医療機関と調整しながら進めてきた。(菅氏の発言は)意外な気がした」と語る〉(4日本紙)。
菅氏には、沖縄が置かれた困難な状況に対する共感が欠如している。もっとも菅氏だけでなく東京の政治エリート(政治家、官僚)の沖縄観はこのようなものだと思う。
新型コロナウイルスに関しても在沖米軍関係者の感染拡大という追加的リスクを県と県民が負っている。日本の陸地面積の0・6%を占めるにすぎない沖縄に在日米軍専用施設の70%が所在するという不平等な状況が、この追加的リスクの原因だ。中央政府はまずこの事実を冷静に認識すべきだ。
新型コロナウイルスに対する県の対応が不十分との印象操作を中央政府は今後も続け、辺野古新基地建設に反対する玉城県政の弱体化を図るであろう。沖縄人はこのような陰険な策略に乗せられない。沖縄の民主主義が強いからだ。
(作家・元外務省主任分析官)