コロナ疑い出動遅れ 「明日はわが身」消防隊員が抱えるストレス 業務とリスクの板挟み


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コロナ感染者や疑いのある患者に対する出動時に隊員が着る防護服。目元はゴーグル、口元はN95マスクで覆う。使用後はマニュアルに沿って脱衣し処分する=7日、本島内

 浦添市消防本部の職員が119番通報を受けた40代女性の新型コロナウイルス感染を疑った結果、救急出動が遅れた件で、職員が決められた手順を守らなかったことなどが問題となっている。同市の事例では、搬送先の病院で女性の死亡が確認された。一方で新型コロナの疑いがある場合、病院に搬送を断られるケースもあるという。感染のリスクにさらされながら、命に関わる判断を求められる救急の現場からは、新型コロナへの対応に不安の声が上がる。

■「たらい回し」懸念

 熱のある患者をかかりつけの病院に搬送しようとすると「他を当たってください」と断られる。県内のある消防隊員によると、そうしたケースが複数回あったという。現時点では2カ所目には搬送先が見つかっているが、この隊員は「病院側が患者の受け入れを渋るような雰囲気を感じる」と明かす。「今後、受け入れ先の病院が見つからず長時間たらい回しにされないかが心配だ」と危惧する。

 別の消防に勤務する隊員は新型コロナが疑われる患者の搬送について「不安だ」と口にする。「もし感染したらどうしよう」という不安な声は周囲の隊員からも聞こえてくるという。それでも「いつも通りやるだけ」と自分に言い聞かせるように語った。

 今回、浦添消防は新型コロナ感染の疑いに目線が向いて、手順に定められた意識の確認などを怠るミスを犯した。別の消防職員は「コロナに過剰に反応し判断を誤ってしまったと思う」と指摘する。一方で「現場はストレスと不安を抱えている。明日はわが身だ」と話す。

■軽症も消防が搬送

 指定感染症である新型コロナの場合、感染が疑われる患者の搬送は通常、保健所の業務で、重症なら消防局が協力する。だが那覇市消防局によると、保健所が業務に追われていたり、電話がつながりにくくなったりしており、軽症のコロナ疑い患者も消防が搬送するケースが増えているという。救急車の出動を要請しない相談レベルの通報も増えている。

 那覇市消防局指令情報課の屋嘉比勝課長は「今は感染が拡大して保健所が多忙なので、軽症者の搬送も協力しないといけない」と理解を示す。だがコロナ疑いの患者を搬送する場合、搬送後の消毒なども含めて約2時間、救急車がその対応に時間を取られることになる。

 屋嘉比課長は「現時点では救急資源を圧迫しているという状況ではない」とした上で「那覇消防の救急車は7台あるが、もし同時に2~3台が出ることになれば、通常の救急対応が遅れてしまうのではないか」と懸念した。

(南部報道部・荒井良平、照屋大哲、中部報道部・金良孝矢、社会部・伊佐尚記)