[日曜の風・浜矩子氏]強権発動の夏 止まらぬ 人々の勇気


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 この夏、洋の東西で強権政治が人々の上に重くのしかかっている。

 8月10日、香港で民主化運動の若き活動家、周庭(アグネス・チョウ)氏が「香港国家安全維持法」違反の疑いで逮捕された。翌11日の深夜には保釈されたが、そもそも、逮捕理由が明示されていない。「国家安全維持法」は、強権の魔の手が邪魔者たちを絡めとるための凶器と化している。保釈後の周氏が、「法律というものは、本来、市民の権利を守るためにあるはず。それなのに、今の香港政府にとって法律は市民の権利を侵害するためのものになっている」と述べていた。誠にその通りだ。いつまた、魔の手が理由も示さず彼女めがけて伸びて来るか分からない。

 8月9日、東欧のベラルーシで大統領選が行われた。現職のアレクサンドル・ルカシェンコ氏が得票率80%で圧勝、6選を果たした。だが、国民の多くはこの結果の正当性を認めていない。対立候補だったスベトラーナ・チハノフスカヤ氏もこれは不正選挙だとして再集計を求めた。

 ところが、その後に国営メディアが公開した動画の中で、チハノフスカヤ氏は支持者たちに抗議活動を止めるよう呼び掛けた。人々は、原稿を棒読みする彼女の固い表情の中に、治安当局の圧力をみた。そして11日、彼女は国外に脱出した。自分と家族の身の危険を感じてのことである。行く先は隣国のリトアニアだ。

 チハノフスカヤ氏は、夫に代わって今回の大統領選に出馬した。夫のセルゲイ・チハノフスキー氏は著名ブロガーで、反体制活動家として高い支持を得ていた。だが、彼は身柄を拘束され、大統領選への出馬を阻まれた。彼は今もなお、拘禁されている。

 洋の東西におけるこれら二つの恐ろしくもおぞましい出来事は、くしくも、ほぼ同じタイミングで発生した。強権が弾圧を決断した時、その残忍さは止まるところを知らない。だが、人々は負けてはいない。保釈後の周氏は、香港の民主化のために闘い続ける意思を表明した。ベラルーシでは、人々による大規模な抗議運動が続いている。人々の勇気もまた、止まるところを知らない。

(浜矩子、同志社大大学院教授)