「差別の奥にある差別」えぐる ハンセン病と在日 故崔南龍さんの生涯、輿石さん映画化


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映画「岸辺の杙」について語る輿石正監督=16日、名護市

 「生きることと差別することは同居している」。沖縄県名護市で映像制作を手掛ける「じんぶん企画」の代表取締役、輿石(こしいし)正監督(74)がこのほど、105分の長編ドキュメンタリー映画「岸辺の杙(くい)」を完成させた。7年の歳月をかけ、在日韓国人でハンセン病を患った故・崔南龍(チェナムヨン)さん(1931年~2017年)の生涯をたどった。黒人や新型コロナウイルス感染者への差別が世界的な問題となる中、映画は静かに、深く問い掛ける。輿石監督は「生きることの複雑さや、いとおしさを感じてほしい」と語った。

 「『らい』という言葉にこだわった」。輿石監督は自身が務めたナレーションで、ハンセン病の語句の使用を意図的に避けた。「ハンセン病というと言葉の実態がない、すり抜けていく」。国家政策で隔離された痛みや歴史、国家の加害性をうやむやにしたくないとの思いからだ。

 一家離散した崔さんが隔離されたのは、岡山県にある国立邑久光明園(おくこうみょうえん)だった。監視される暮らしの中、崔さんを生きる方向に向けていったのが文学だった。

生前の崔南龍さん(映画「岸辺の杙」より)

 崔さんは多くの著作を残し、その一つ「どくだみの花の咲く頃」が今回の映画製作のきっかけにもなった。輿石監督は生前の崔さん本人にカメラを向け、直接話を聞いた。視力を失った崔さんはインタビューに関西弁で、時に笑みを浮かべながら応じた。だが、その笑みの背後には「底なしの悲しみ」が広がっていた。

 崔さんに対して、何度も立ちはだかる日本の差別の歴史が映画で写し出される。象徴的な事例として、国民年金制度では日本国籍の患者には福祉年金の受給資格を与えられたが、韓国籍の崔さんは外国人として対象外にされた。外国人登録証明書への指紋押なつを巡っても、在日韓国人には押なつを拒否する人もいた中、日本政府は崔さんの指が曲がり、感覚がないため押なつは無理と決めつけた。押なつを“拒否する権利”すら与えなかったことを映画は記録し、「差別の中にある、もう一つ奥の差別」を浮き彫りにする。

 輿石監督は「生きる上で差別がある。この不条理さを諦めるのではなく、考えることだ。一人一人が考えることが大事ではないか」と問い掛けた。

 コロナ禍で上映会の予定はないが、DVDを8月下旬に販売開始する。県内外送料込みで1枚3300円(税込み)。jinbun@edic-121.co.jp
 (照屋大哲)