経済政策に功罪 安倍首相退陣表明


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 安倍晋三首相が28日に辞任を表明した。第2次政権が発足して約7年8カ月の期間は、県経済が拡大を続け、全国でも屈指の好調さを見せた時期と重なる。経済界からは、観光立国を目指す国の政策によって沖縄の基幹産業の観光を拡大させたとして、沖縄経済の成長に貢献したと評価する声が上がった。一方、金融界から批判が噴出したマイナス金利政策や、2度の消費税率引き上げに厳しい指摘も出るなど、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の功罪を巡り、県内でも評価はさまざまだ。

観光 ― 県内入域客が拡大

 安倍首相は成長戦略の柱の一つとして「観光立国の実現」をうたってきた。特にインバウンド(訪日外国人)需要の拡大路線は、観光振興に力を入れる沖縄にとっても恩恵が大きかったと評価の声が上がる。

 外国人への査証(ビザ)発給要件の緩和措置のほか、安倍政権が金融緩和政策で誘導した円安の影響により、海外から日本を訪れる旅行客は急増してきた。

 中でも沖縄は全国でも屈指のインバウンド増加県となり、安倍首相就任の2012年度に38万人だった沖縄の外国人客は、18年度には約8倍の300万人にまで増えた。同期間の全国の増加率3・8倍を上回る。沖縄を訪れる観光客の増加はホテルや商業施設の建設投資を呼び込み、人手不足の深刻化や地価の高騰にもつながることとなった。

 沖縄の観光インフラ整備では、今年3月に運用開始した那覇空港第2滑走路について、当初は7年だった工期を5年10カ月に短縮して完成させた。県ホテル協会の平良朝敬会長は「那覇空港の前倒しでの完成は、今の政権でないとできなかった」と評価する。

 一方、新型コロナウイルスの感染拡大で観光業界の景気は急激に悪化している。政府の観光支援事業「Go To トラベル」が始まったが、全国的な感染拡大が収まらない中で効果は見えない。沖縄観光総研の宮島潤一氏は「経済を停滞させないためにも、すぐ次にかじをきる必要がある。持続化給付金や雇用調整助成金など、緊急カンフル剤的な政策は継続すべきだ」と話した。

金融・TPP ― マイナス金利影響

 アベノミクスの3本の矢の一つに位置付けられた「大胆な金融緩和」の一環で、2016年1月に始まった日銀のマイナス金利政策は、全国の地方銀行の収益環境に大きな影響を与えた。通商政策では環太平洋連携協定(TPP)など多国間の自由貿易枠組みを推進し、安い輸入農産物が流入することに国内農業者から反発も起きた。

 長引く超低金利により銀行の稼ぐ力が落ちており、県内地銀3行も例外ではない。3行の貸出約定平均金利は、第2次安倍政権が発足した12年の2・22%から、19年には0・76ポイント減の約1・47%に低下した。県内地銀関係者は現政権の金融政策について「劇薬だった」と語る。

 一方、県内は入域観光客数の増加などにより、日銀は今年2月まで77カ月連続で景気が拡大していると判断していた。設備投資意欲が旺盛な民間の資金需要によって、利ざやの減少を貸出金のボリューム拡大で補うことができていた。

 だが、コロナ禍で収益環境は一変し、不良債権の増加など与信費用の増加に加え、貸出金利回りの一層の低下も懸念されている。

 アベノミクスの金融緩和について、地銀関係者は「総論では経済立て直しにつながったが、中小・零細が多い県内企業にマイナス金利の恩恵が行き渡ったのか。アフターコロナも見据え、金融政策の検証が必要ではないか」と語った。

 18年12月のTPP発効では輸入農水産物の多くで関税が引き下げられることとなり、農業団体などが反発。県内でも畜産やサトウキビを中心に影響額は200億円に上ると試算されるなど、不安が広がった。

雇用・所得-改善傾向も質に課題

 第2次安倍政権の7年8カ月で、県内の完全失業率や1人当たり県民所得は改善した。最低賃金引き上げもあって県民の消費購買力の上昇につながったという評価がある一方、雇用の質を疑問視する声もある。

 2012年度に197万1千円だった1人当たり県民所得は、17年度は234万9千円に上昇した。地域別最低賃金も、12年度の時給653円から20年度には792円に上昇した。ある小売業関係者は「全てが政策の成果ではないと思うが、政治が引っ張って県民所得が増えたことで、購買力は成長したと感じる」と話す。一方で、在任中に増税したことについては疑問を感じている。「特に10%への引き上げで、消費欲は確実に下がった」と話した。

 経済拡大を受けた人手不足を反映し、13年度に5・4%だった県内の完全失業率は19年度に2・8%と復帰後最低を記録。19年度の有効求人倍率も1・16倍と好調だったが、正社員の求人倍率を見ると0・58倍にとどまり、1倍を超える全国平均と比べ依然として低い。連合沖縄の東盛政行会長は「表向きは就業者が増えたと言っているが、雇用の質は伴っていない」と指摘した。