CO2ゼロのハードル高く 沖縄県、非常事態宣言へ 狭い県土、車社会で制約 実態伴う取り組みが課題


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 沖縄県は地球温暖化が進行すれば、沖縄の経済や社会に悪影響を及ぼしかねないとして、本年度末にも「気候非常事態宣言」を発表する。都道府県による気候非常事態宣言は全国3例目となる先行事例だ。ただ、県は非常事態宣言の中で2050年に県内の二酸化炭素(CO2)排出量を「実質ゼロ」にする計画を掲げることも検討していたが、宣言はこれを「目指す」という表現に落ち着きそうだ。非常事態宣言が“掛け声”にとどまらず、実態を伴う取り組みになるかが注目される。

 CO2排出量を実質ゼロにするには、排出量自体を大きく削減し、かつ吸収量を大きく増やして相殺する必要がある。

 排出量の実質ゼロ達成が県内で難しい背景には、(1)狭い県土でCO2を吸収する森林などを増やすことに制約がある(2)主な発電源が化石燃料(3)排出量が最も多い「運輸部門」(自動車や航空機)でも化石燃料が使われている―などの状況がある。排出減、吸収増の両輪が「足踏み」している。

構造的問題

 県の算出によると、18年度の県内のCO2排出量は1258万トンと推計される。一方、県はこのほど、森林などによる県内のCO2吸収量を初めて推計したが、同じ18年度の推計値は16・2万トン。排出量のわずか1・3%だった。

 排出量の内訳を見ると、最大のCO2排出源が「産業部門」ではなく「運輸部門」となっているのが沖縄の特徴だ。

 県によると、観光が基幹産業と位置付けられる中、那覇空港発着回数の増加で航空機による温室効果ガスの排出量は長期的には増加傾向にある。さらに沖縄の「車社会」は相変わらずだ。鉄軌道の導入も議論は続いているが、具体的な計画には至っていない。

 県が削減目標の「基準年度」とする13年度のCO2排出量は1277万トン。今後、何も対策を取らなければ30年度に1323万トン、50年度に1395万トンまで増えると推計している。これを30年度には基準年度比で26%減の945万トンとし、50年度には実質ゼロに持っていきたいというのが県の「目標」だ。

 一方、県環境部関係者は「構造的な問題が多く、正直言って削減は簡単ではない。電源の変更には沖縄電力との協議も必要だ。航空機や自動車が使う燃料は自治体でどうこうできる話ではない。県民一人一人の取り組みだけでは、実質ゼロの達成は難しい」と漏らす。

技術革新が頼み

 県によると沖縄の平均気温は今世紀末には3度以上上昇すると見込まれている。温暖化の進行で干ばつや豪雨などの自然災害が増え、亜熱帯気候の沖縄で熱帯性の疾病が発生するリスクも指摘される。社会生活や経済にさまざまな被害をもたらす懸念がある。

 7月の県議会土木環境委員会で実質ゼロの達成見通しを問われた松田了環境部長は「ハードルは非常に高い」と認めざるを得ず、「非常事態宣言」にこの目標を盛り込むかは明言しなかった。松田部長は目標達成には「革新的な技術の開発、導入が必要だ」と説明した。産業基盤がもろい県内では、こうした「技術革新」を生む環境は必ずしも十分でない。似たような環境にある海外の島しょ地域や学術機関との連携、先行事例の導入など、さまざまな工夫が求められそうだ。

(島袋良太)