観光激減で転換点 20年基準地価 県内活況に陰り コロナで商業地収益性低下〈経済アングル2020〉


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 県内の基準地価は、前年比の平均変動率が全用途でプラス4.7%と、3年連続で上昇率全国トップを維持した。しかし不動産関係者の間では、既に2019年後半ごろから勢いの鈍化が指摘されていた。さらに新型コロナウイルス感染症の影響により、観光客が激減し商業地の収益性が低下するなど、好調だった県内不動産市況は大きな転換点を迎えている。

 収益性の高いホテルは、高い観光需要を背景にまとまった土地を高額で取得し、地価を押し上げてきた。しかし県外、海外資本の参入が相次いだことから、供給が急激に伸び個別のホテルの収益は必ずしも良好ではなかった。那覇空港第2滑走路の利用開始で宿泊を伴う観光客の増加が見込まれていたが、感染症によって先行きは一挙に不透明になった。

 ある県内不動産関係者は、ホテル建設は企画から完成まで数年かかることから、感染症による投資意欲の減少については楽観的な見方を示す。一方で「経営が苦しくなって割安な価格でホテルが売られる可能性が強まれば、新規開発より買収を選ぶ企業も増えるだろう」と予測する。

 ■マンションは苦戦

 今回の調査で、19年はプラス27.2%で県内住宅地トップの上昇率だった那覇市壺川のマンション用地が横ばいになるなど、特にマンションは苦戦している。近年の大幅な地価上昇や建築単価の高騰により、一般県民の手の届かない価格帯の物件が多くなったこともあって、19年後半には動きが鈍っていた。

 さらに感染症の拡大で、企業の業績悪化によるボーナスの減額などで購入意欲が低下した。予防のために4~5月はモデルルームを休止したことも響き、5月の契約数は大幅に落ち込んだという。

基準地価で30年連続県内最高価格地点となった那覇市松山1の1の14=28日、那覇市松山

 沖縄住宅産業協会の兼村明事務局長は「県外客の購入を当てにしていた物件は厳しくなる。地元客に受け入れられるような価格や企画を練り上げる必要がある」と話した。

 値引きの動きも出ている。県内マンション事業者は「マンションは企画してから収入になるまでに時間がかかる。体力のない事業者には、取得している土地をやむなく手放す動きも出始めている」と先行きを危ぶむ。

 ■物流拠点に熱視線

 一方で、注目を集めるのがロジスティクス(物流)需要だ。沖縄は工業用地の供給が少ないこともあってコロナ前から価格上昇が続いており、コロナ禍でも電子商取引(EC)の拡大など伸びしろが大きいことから熱い視線が注がれている。

 県不動産鑑定士協会の高平光一会長は「工業地、物流用地の需要の高さは別次元だ。今後は効率化のために高層利用も出てくるかもしれない」と話す。

 県外の不動産開発事業者は「オフィスや商業需要はコロナで先行きが分からないが、物流は有事でも安定した収益が見込める」と指摘。県内の物流拠点には古い設備が多く、最新設備を導入して効率化すれば、高めの賃料でも入居者が現れるとの見方を示した。

※注:高平光一会長の「高」は旧字体

(沖田有吾)