「新報さんにはいないの?」新聞社員の給付金不正、揺らぐ信頼<新型コロナ取材ノート>


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持続化給付金の申請を呼びかけるネット上のアカウントに掲載された、同給付金を受給したとみられる通帳の写真(SNSより、画像は一部加工しています)

 「新報さんにはいないの?」。新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた中小企業や個人事業者を対象にした持続化給付金の不正受給が、県内でも多発している。沖縄タイムス社員も持続化給付金などを申請し、計180万円の受給や融資を受けたことが明らかになり、懲戒解雇となった。冒頭の言葉は、取材先などから本紙社員へ掛けられたものだ。

 報道機関は政治や行政の不正をチェックし“第4の権力”とも呼ばれる。県民から信頼を得るためには、報道各社そのものが不正行為に関わっていないことが何よりも重要になる。今回の件は、報道機関としての責任の重さを改めて突き付けた。

 本紙は9月8日付朝刊で、持続化給付金の不正受給が県内で4億円以上あることを大きく報じた。持続化給付金を巡っては全国でも不正受給が相次ぐ。給付金は新型コロナで打撃を受けた事業者らを、迅速に救済するための制度だ。そのため審査は簡略化され、手続きもインターネット上で行える。そこに反社会的勢力などが着目した。SNSや人づてなどで、対象ではない人々に申請を呼び掛け、手数料名目などで給付金の一部を受け取る手口が広がったとみられる。

 取材に応じた不正受給者は「給付金は国が判断して私に支給した。なんで私が悪くなるの?」と話し、不正行為に関与したという自覚はなかった。捜査幹部は「『誘い文句に乗っただけ』という甘い認識だろうが、虚偽の申請で国から税金をだまし取った詐欺事件の被疑者だ」と強調する。

 こうした不正受給事件が全国的にも社会問題となる中、沖縄タイムス社員による不正受給が発覚した。同社は謝罪会見を開き、全国メディアでも報道された。ジャーナリストの青木理氏は「権力監視を最大の任務とするメディア組織で働く者は、記者に限らず印刷や営業、販売などの社員を含めて高度な倫理観が求められる。常日ごろ権力を批判する以上、自らも厳しく律しなければ信頼を失う」と指摘する。

 沖縄タイムス社員の不正受給が明らかになったことを受け、本紙でも社員の調査を始めた。各所属長の聞き取り調査などでは、本紙や関連会社も含めて不正受給に関与した者は確認されていない。

 時には取材対象者を批判したり、是正を求めたりする記事を書いてきた身として、沖縄タイムス社の件は対岸の火事とは思えなかった。社会の公器とも言われる報道機関としての責任を果たせるよう、より一層身を律する必要がある。 (当間詩朗)