『琉球人遺骨は訴える 京大よ、還せ』 ともに生きる世界への希望


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『琉球人遺骨は訴える 京大よ、還せ』松島泰勝・山内小夜子編著 耕文社・1870円

 「京大は、遺骨をもとの場所に返しなさい」と、2018年12月に始まった「琉球民族遺骨返還等請求訴訟」は求めている。本書は、現在も継続中の口頭弁論の過程に関する中間報告であり、また原告団を構成する5名の他に、弁護団、研究者、支援団体などから寄せられた多彩な論考を収録し、この訴訟で争われている諸問題を俯瞰(ふかん)できる好著である。

 1930年前後、今帰仁村運天にある百按司墓などから大量の遺骨が持ち去られ、京都帝国大学に移管された。一部は、研究者の転籍とともに、まるで彼の所有物でもあるかのごとく、台北帝国大学へと移動した。いま、それらの遺骨は沖縄県埋蔵文化財センターに「保管」されている。

 遺骨を研究材料とした学問は何を明らかにしようとしていたのか。遺骨を持ち去ることは、当時でも違法ではないか。では、違法行為が咎(とが)められずにすんだ権力構造とは何か。遺骨の安住の地はいったいどこか。本書では、これらの疑問などが遡上(そじょう)にのぼる。

 詳細な資料にも基づく説得力のある歴史分析、国際法を論拠にした強靱(きょうじん)な主張が押しならぶなか、特に評者の心を動かしたのは、「遺骨返還は私たちの責任」という横田チヨ子氏の証言である。サイパン島から終戦直後、沖縄本島の収容所に収監され、食糧難を生き延び、父と兄弟の遺骨を求め繰り返しサイパン島を訪問する氏の姿に、洗骨や遺骨を介し、先祖が子孫を見守り、子孫はその見守りに応え、先祖を敬い、大切に祀(まつ)る責任があるという互酬性を読み取った。自らの責任についてそう捉えている氏には、遺骨をもとの場所に戻し、個人のためだけではなく、皆がともに生きる世界の安寧を願いたいという希望があるに違いない。

 時間を遡(さかのぼ)り、過去の過ちを正すことはできない。しかし、過去の過ちを正すために未来に向けて、いま何ができるのかを考え実行する価値はある。『京大よ、還せ』は呼びかける声である。京大はその呼びかけに耳を傾け、どう応えるのか、裁判の行方を見守りたい。

 (太田好信・九州大学名誉教授)

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 まつしま・やすかつ 石垣島生まれ。龍谷大教授。琉球民族遺骨返還請求訴訟原告団長。琉球民族遺骨返還研究会代表。

 やまうち・さよこ 愛媛県生まれ。大谷大学非常勤講師。真宗大谷派僧侶。琉球遺骨返還請求訴訟支援全国連絡会事務局長。