首里城を修正ペンで描く思いは…豊見城出身の画家、東京で個展


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首里城焼失から1年間、作品作りに向き合ってきた思いを語る與那嶺しのぶさん=23日、東京都の「gallery201」

 【東京】「当たり前のことがすごく大切なんだと改めて気付かされた」。首里城焼失から1年がたつのを前に思いを新たに作品作りに向かっているのは、東京で絵画展を開いている画家の與那嶺しのぶさん(32)=豊見城市出身。首里城が燃える映像を見た直後、突き動かされるようにキャンバスを前に筆を走らせた。あれから1年。新型コロナウイルスの影響もあり身近な人や場所の大切さを再認識してきた。「当たり前のことを忘れないように心に留めておきたい」と、さらに思いを強くして作品を生み出し続けている。

 新型コロナでの新たな生活の中でも、当たり前に過ごしていた日常の大切さを意識させられた。無くなるなんて想像もしていなかった首里城が燃えた。普段から接していた人たちとも距離をとらないといけない日常になった。「二つの大きな出来事が重なって、大切な人や場所が当たり前にあることがすごく大切なことなんだと気付かせてくれた」

 26日まで東京都品川区の「gallery201」で開かれている與那嶺さんの絵画展「gusuku(グスク)―聖なる場所」では、シーサーや龍、鳳凰と首里城を重ね合わせた作品など40点が並ぶ。修正ペンを使って描いた首里城などの作品は、本来は消すためのペンで逆に作品を生み出すことで「悪いこともいい方向に変えていけるよう、マイナスもプラスになるよう」との思いを込める。

 糸満高校卒業後はしばらく絵を描くことから離れていた。職場の作業で商品説明の絵を描いて改めて絵画を再開し、作品作りを始めた。そこへ昨年の首里城焼失。夜中からニュースの映像で燃える首里城に接し、大きなショックと喪失感を抱えながら、自然とキャンバスに向かって筆を走らせた。

 首里城の正殿の「赤」を背景に守礼門や龍柱などを描いた作品は、来場者から「首里城の燃えた色か」「怒りのようなものを感じる」といった感想も聞かれる。

これまでのシリーズから印象を変え、彩色をほどこした作品の前に立つ與那嶺さん

 今回の展示用に新たに描いた絵は、金箔を使った背景に、首里城の赤瓦の上に守護するシーサーと龍が鎮座する構図。これまでの白い背景に黒い細密な線で描いてきたシリーズからがらっと印象を変えて彩色をほどこした。この1年、「大切な人・もの」への思いをさらに強くしながら絵を描いてきた結実が、自然と生まれてきた新たな表現だった。

 8月に沖縄で予定していた個展は新型コロナで延期された。昨年6月から沖縄には帰れていない。だからこそ沖縄への思いも一層募る。沖縄に戻れるようになったら「いろいろと巡って、もっとたくさん作品を描いていきたい」と想像を膨らませる。

 今回の個展にあわせて出したメッセージで與那嶺さんは「首里城の火災、そして思いがけない困難。いつもそこにあった『当たり前の日常』は、心が追いつかない程急激に変わり『新しい日常』に。だからこそ『大切な日常』を想い、懐かしい景色と共に早く戻ってくるようにと祈りを込めて描いた」とその思いを記している。【琉球新報電子版】