地域協力、技術つなぐ 壺屋やちむん通り祭り 陶芸作品披露・販売 <再建に描く未来 首里城消失1年⑥>


地域協力、技術つなぐ 壺屋やちむん通り祭り 陶芸作品披露・販売 <再建に描く未来 首里城消失1年⑥>
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 2019年10月31日、那覇市立壺屋焼物博物館の主任学芸員・比嘉立広さん(36)の元に一本の電話が入った。電話の主は、県立芸術大学3年次(当時)の須藤祥太郎さん(21)=糸満市。同日未明の首里城火災の影響で、開催目前の芸大祭が中止となり、陶芸作品を披露する場を失った。「作品を販売する場所を探しています」。2日後に開催の壺屋やちむん通り祭りに出店させてもらえないか、と切実な依頼だった。

芸大生の出店に協力した、壺屋やちむん通り会の金子康一会長(右)と那覇市立壺屋焼物博物館の比嘉立広さん=10月2日、那覇市壺屋の陶宝堂

 31日の朝、首里城が焼失したことをニュースで知った須藤さん。糸満市の自宅から大学へ急いだ。見慣れた首里城の姿は既になく、黒い煙が立ち上るだけだった。ショックから涙する学生もいた。

 ぼうぜんとしていると、11月2、3日に開催予定だった芸大祭の中止を知らせるメールが届いた。当日に向け、数カ月前から準備を進めてきた。「現実味がなかった」と喪失感に襲われた。どこかに作品を披露できる機会はないか―。その時ふと、夏に参加した那覇市立壺屋焼物博物館の学芸員研修時に紹介された壺屋やちむん通り祭りを思い出した。すがる思いで、博物館に連絡を取った。

 その後、出店が実現するまでに時間はかからなかった。通り会の会員からは協力しようという声がすぐに上がった。やちむん通り沿いの広場などを活用できるよう手配し、学生たちの無料出店を快く許可した。

 11月2日、会場には学生15人が丹精込めて作り上げた陶芸作品が並んだ。祭りに出展することを聞いて駆け付けた人もおり「頑張ってね」と温かい言葉が掛けられた。2日間で200点を超える作品が売れ、須藤さんは「作品を初めて販売する学生も多く、お客さんに購入してもらい胸が熱くなった。感謝しかない」と笑顔で振り返った。学生らは後日、首里城再建に役立ててもらおうと売り上げの一部を沖縄美ら島財団へ託した。

 通り会の金子康一会長(78)は「学生の思いを聞き、通り会の会員は皆出店を快諾した。再建に向け、学生たちとともに前を向きたい」と語った。同博物館の比嘉さんは「首里城の火災は非常に残念だったが、地域と学生が交流するきっかけになった。陶芸を学ぶ学生の将来につながってほしい」と思いを寄せた。

 首里城焼失を機に、須藤さんは沖縄の土を使った陶芸や技術継承への思いをより一層強くした。「首里城を『お隣さん』として身近に感じてきた。焼失した今、首里城を形作った技術を絶やさないことに重要な意味を感じる。観光施設としてだけでなく、伝統や歴史を後世に伝える文化財として再建してほしい」と願いを込める。

(吉田早希)