<米大統領選と沖縄>新たな対米運動が必要 沖縄対外問題研究会代表・我部政明


社会
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我部 政明

 日本人の多くが米国の「トランプ劇場」に熱中した、と思う。最大の見せ場が、11月3日の米大統領選挙の投開票だった。あくまでも「劇場」なのだから、興奮も失意も喜びも楽しんでいられた。日本人観客がどのように米大統領選挙を楽しもうが、日本のことが米国の有権者、候補者から語られることはなかった。

 確かに、米国は世界の大国である故に、その指導者選びに米国人以外の関心が注がれるのは当然だ、といえるかもしれない。しかし、対米基軸を「国是」とする日本であるので米大統領選に注目するのが当然だとする論には、うなずけない。当事者である米国民の眼中にも頭の片隅にも日本の存在がない以上、対岸にいる日本人は複雑な感情を抱くのが当然だろう。それに気付いていなければ、無邪気さや滑稽さを通り越して悲しいことかもしれない。

 75年以上も続く米国中心の戦後世界は、多くの国を米国へ倣う流れに押しやってきた。資本主義を支える自由貿易、選挙による民主主義、普遍的に適用される人権という考えに基づく世界を、地球大に拡大してきたのである。世界中の人々は、今、それらの基本が米国で揺らいでいる現実を見せられている。地球規模の視点に立つと、「劇場」の観客だと思っていたら、観客という役の登場人物であり、劇場自体を取り込んだ「地球政治の大劇場」へと化していると気付くはずだ。

 戦後世界の中の日本は、米国の変化に「合わせる技」を外交・安保の術としてきた。中国を敵視するトランプ政権に日本の保守層は親しみを持っても、新しく誕生するバイデン政権の外交・安保政策に「寄り添う」のが対米基軸の日本なのだ。

 米軍基地の存在に悩まされる沖縄の現実は、米大統領の交代で変化してこなかった。唯一の例外は、ケネディ政権の新しい沖縄政策だった。1960年の安保改定で日本は、国内政治を理由にすれば米国の政策に影響を与え得る、と学んだ。その行き過ぎから米国の沖縄統治を守るために、米国は沖縄に自治権拡大、日本政府援助の導入、日の丸掲揚などを認めた。

 バイデン新政権は、環境、移民、人権に加えて新たな雇用創出を重視するという。ならば、沖縄で展開する環境運動、米国に暮らす沖縄系移民、沖縄から発信するマイノリティー運動を巻き込んで、沖縄県知事が先頭に立つ新しい対米キャンペーンを開始するときだ。産業界や労働組合も米国との関係は深いのだから、役立つはずだ。沖縄の持つ全ての対米コネクションを動員して沖縄の現実を知ってもらうことだ。地球政治では自ら声を出さない限り、海の向こうからプレゼントは届かない。