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復活!「み~きゅるきゅる」編集長が語る 街の記憶を刻む理由<まちぐゎーひと巡り 那覇の市場界隈13>


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「市場の古本屋ウララ」の店頭に並ぶ地域情報誌「み~きゅるきゅる」=那覇市

 まちぐゎーには小さな地域情報誌がある。2004年に創刊された『み~きゅるきゅる』だ。

 編集長の宮道喜一さん(42)は横浜生まれ。1998年、大学進学を機に沖縄に移り住んだ。建築学科で都市計画を学んでいた宮道さんは、街づくりに関心があり、学生時代から那覇市のNPO活動支援センターで働いていた。そこで目にしたのは、自分たちが暮らす地域の問題を自分たちで解決しようと奮闘する人たちの姿だった。

 住民が主体となった街づくりを実現するには、どうすればよいのか――共通の関心を持った4人の仲間と「まちなか研究所わくわく」を立ち上げたのは、2004年4月1日のこと。その年の夏に『み~きゅるきゅる』を創刊し、「桜坂」をテーマに特集を組んだ。

 「団体を立ち上げたとき、事務所があったのは桜坂だったんです。街づくりをやっていくのであれば、まず地元のことをちゃんと知らなきゃねと、地域のことを掘り起こして伝える媒体づくりをやってみようということで、活動を応援してくださる方々と一緒に取り組んだのが『み~きゅるきゅる』の創刊でした」

地元に読んでほしい

地域情報誌「み~きゅるきゅる」の取材や編集の内容について話し合うメンバーら=那覇市(まちなか研究所わくわく提供)

 メンバーの中に雑誌づくりの経験者はおらず、「最初の号はとにかく勢いで作った感じです」と宮道さんは笑う。当時はフリーペーパーが脚光を浴び始めた時代で、那覇でも多くのフリーペーパーが発行されていた。ただ、そのほとんどが観光客向けの情報を掲載したもので、地元客向けのものは見当たらなかった。

 「『み~きゅるきゅる』は、地元の方にこそ読んでほしいというコンセプトで作りました。『なんで桜坂っていう名前がついたんだろう?』とか、『どうして開南という名前になったんだろう?』とかって、意外と地元の人にも知られていないところがあって。その名前がついた背景には、その土地に携わった先人がいて、街をよくしていこうと活動された歴史があるはずだから、それを伝えていこうとなりました」

 沖縄では「県産本」が数多く出版されており、ひとびとの生活がさまざまな形で記録されてきた。ただ、まちぐゎーの戦後史をつづった資料は少なかったこともあり、創刊号は反響を呼び、読者から情報提供が舞い込んだという。

 「まちぐゎーの戦後史の資料って、極端に少ないんじゃないかと思うんです。市町村史を当たれば、戦前のことはある程度わかるんですけど、『み~きゅるきゅる』が取り上げるエリアは戦後からの街が多いので、文献を調べてもなかなか情報が出てこないことが多くて。街が変化すると、それまでの姿はどんどん忘れられていくので、街の記憶をちゃんと記録に残したいと、『み~きゅるきゅる』を作る中で改めて思うようになりましたね」

休刊状態から復活

久茂地、前島、むつみ橋など地域ごとに特集を組む地域情報誌「み~きゅるきゅる」
街の姿を記録していく思いを語る地域情報誌「み~きゅるきゅる」編集長の宮道喜一さん=那覇市

 これまで特集を組んだのは、桜坂、久茂地、前島、むつみ橋、開南、牧志公設市場衣料部・雑貨部、それに第一牧志公設市場だ。毎号ボランティアを募り、集まったメンバーたちの視点で記事が書かれてきた。ただ、2011年に発売された第7号を最後に、休刊状態が続いていた。

 久しぶりに刊行に向けた動きが立ち上がったのは、2019年の秋だった。公設市場の建て替え工事にともない、市場の周囲のアーケードは撤去されることになった。アーケード再興に向けた取り組みも始まるなかで、「マチグヮーのアーケード」を特集テーマに、『み~きゅるきゅる』を復活することに決めた。1年近い準備期間を経てこの秋、最新号が完成した。現時点では「市場の古本屋ウララ」のみで購入可能だ。

 「『み~きゅるきゅる』を作り続けて、地元で商店をやっている方から直接的な反応をいただくことはそんなにないんです。ただ、こうして記録しておくと、なにか変化に直面したときに必要とされることもある。たとえば公設市場が建て替え工事を迎えて、まちぐゎーの歴史を踏まえた街づくりをしようとなったときには、こうして1冊にまとめておくことが無駄にはならないと思うんです。だから、何か大きな変化に対応しなければならないときに向けて、基礎をつくっているようなイメージですね」

紙媒体にこだわる

牧志公設市場周辺の街を歩き、取材する地域情報誌「み~きゅるきゅる」のメンバーら=那覇市(まちなか研究所わくわく提供)

 SNSが普及した今、インターネットを通じて手軽に情報が発信できる時代となった。それでも紙媒体にこだわって発刊を続ける背景は、「雑誌を手に街を歩いてほしい」という思いがある。そして、その誌面は街の歴史をまとめただけでなく、現在の姿が必ず記録されている。

 「まちぐゎーは商人の街なので、時代の変化とともに変わり続けてきた場所だと思うんです。今の姿も、1年後には歴史になっていくような状況なので、現在の様子もちゃんと捉えておくというのは創刊号からコンセプトとしてあります。過去があって、現在があって、未来を思い描くことができる。だから、今のまちぐゎーの姿も記録しておけたらと思っています」

 『み~きゅるきゅる』には、「この冊子を手に街を歩いてみてほしい」との思いから、特集した地域の地図が必ず掲載されている。第一牧志公設市場はいよいよ建設工事が始まるが、建設中の風景というのも今しか目にすることができないものだ。その風景を目に焼きつけておこうと、ぼくは『み~きゅるきゅる』を片手に、まちぐゎーを歩き続けている。

(ライター・橋本倫史)

 はしもと・ともふみ 1982年広島県東広島市生まれ。2007年に「en-taxi」(扶桑社)に寄稿し、ライターとして活動を始める。同年にリトルマガジン「HB」を創刊。19年1月に「ドライブイン探訪」(筑摩書房)、同年5月に「市場界隈」(本の雑誌社)を出版した。


 那覇市の旧牧志公設市場界隈は、昔ながらの「まちぐゎー」の面影をとどめながら、市場の建て替えで生まれ変わりつつある。何よりも魅力は店主の人柄。ライターの橋本倫史さんが、沖縄の戦後史と重ねながら、新旧の店を訪ね歩く。

(2020年11月27日琉球新報掲載)